相続の専門家を挙げよといわれると、相続税の申告は税理士の独占業務であり、遺産分割協議など相続人間の争いや調整に関与する時などは弁護士である。また自宅などの不動産は登記が必要なことから司法書士ということになる。資産家や地主といわれる人々の多くは、豪壮な自宅の他に収益目的の賃貸不動産・貸地(借地人がいる)・駐車場・別荘等を所有している。そのため不動産業者、建設会社、不動産鑑定士、行政書士、土地家屋調査士等が寄ってたかって関与することになる。

また、相続に関わる周辺分野の金融機関、保険会社、証券会社、ビジネス出版社、葬儀社、FP、遺品整理会社、終活コンサル、等々いわゆる相続コンサルタント業界が脇を固めており、いわゆる相続ビジネスは隆盛を極めてきたといっても過言ではない。

かくいう私は平成12年にNPO法人相続アドバイザー協議会(平成25年まで理事長を勤めた)を創設した張本人であり、それを作る動機として、相続業務は一人の専門家では到底できるものではなく、専門家が複数集まったチームでなければより良い解決策や結果は生まれない。そのために品の良い(笑)専門家を養成しようと思ったからである。また、各士業の人々(私を含め自分たちの業務が一番だと思っている人々なので)に、他士業や他の業界はどのような仕事内容なのかについて、気付いてもらうためでもあった。

これにより、自分の領分だけでは相続は完結しないという謙虚な気持ちを、それぞれが持つことが出来たのではないかと自負している。

更に、遺言書ビジネス(といってもいいのか?)の最高峰は公証人である。言わずと知れた公正証書遺言は、公証役場で作成するのであるが、これを勧める世の中の風潮はもう止まらない。

私もセミナー等の講師を務めるときは、当然のように「遺言書を是非書いておきましょう、できれば自筆証書遺言ではなく、安全な公正証書遺言にしましょう」と訴えてきた者である。何故か家裁での検認手続きが不要であるから、あるいは遺言の無効や改ざんの危険性がほとんどないから、との理由である。

これを書くことによって「子供達には応分の相続財産を残し、争続のない円満な相続を迎えられます」ということが結論である。

しかし、これらの風潮に真っ向から挑もうとしている専門家がいる。私とはかれこれ30年の付き合いのある不動産コンサルタント、株式会社ハート財産パートナーズ社長の林弘明氏(75歳)である。

本人も、この30年間は上記のような相続コンサルティングを実践してきた人である。その人がこの1年間で宗旨替えしたというのだ。それなりの財産を残してもいいが、あまりに多額の財産を子供には残すなというのだ。かつ、遺言書など書く必要はないというのだ。

ただ、遺言書がなければ配偶者には法定相続分が、子供達には均分で相続させることになり、これだと私のような不動産の専門家としては問題があると考える。

例えば、お父さんの財産は自宅1億円。銀行預金1000万円の場合。相続人は母親、息子と娘で合計3人とする。遺言書がないと分割協議を3人で決める必要がある。母親がいればまだ抑えが効くからあまり揉めない。そうしないと自宅の相続登記が出来ない。だから、普通一般人の相続はやはり遺言書はあった方が良い。

しかし、これがいわゆる二次相続なら、兄妹の分割協議なら簡単だ、自宅を売却して山分けすればよい。ただし、兄が母親と同居していると厄介だ。兄嫁さんがいると特にその人の意見も聞く必要がある。

とはいえ、林さん曰く、タナボタ財産をもらうと人間をダメにする。バカ息子やバカ娘になるのだからと。

親の財産をあてにするのは人としては分からなくもないが、自分の場合はどうか。私の父親は33年前63歳で亡くなったが、若い頃より病弱なこともあり財産らしいものは全く残せなかった。しかし、とにかく他人の面倒見が良い好人物であった。一人息子の私を「溺愛」してくれた。その背中を見て育ち、今の自分があると思っている(だからか、今でも子供のころに呼んでいたお父ちゃんである)。

無形な財産であったが、何よりの財産だと感謝する。

 

自分で稼いで築いた財産は生前に自由に使う。配偶者がいれば豪華客船の海外旅行に行く。あるいは好きな趣味に打ち込む。自分が世話になった学校や公共団体に少しでも寄付をするなど。稼がせてくれた社会に還元する等、使い切る人生もいいのではないかという深い人生訓でもある。

 

 

 

 

 

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