今回のテーマは、「納税通信」の記事に触発された(心に火が付いたといってもよい)ことが、正直なところです。

その記事とは、私に相続税の申告時の土地評価に不動産鑑定評価を用いる必要性がある、というきっかけを与えてくれた、税理士・不動産鑑定士の森田義男氏の文章です。その概略は、国税庁が道路上に路線価を設定する際の基準の曖昧さ、科学的根拠(例えば建築基準法の道路等)の乏しさを鋭く指摘したもので、森田氏らしい相変わらずの鋭い舌鋒に溜飲が下がる思いでありました。

古い話で恐縮ですが、平成3年に発行された森田氏の「怒りの路線価物語」(ダイヤモンド社刊)が、私にとって、この世界(相続税評価)に足を踏み入れた原点でもあります。

ということで、私の本分である相続税財産評価の分野の土地評価にスポットを当てたいと思います。

さて、相続税の申告において、土地等は国税庁が規定した「財産評価基本通達」に基づいて評価をすることになっています

『財産の価額は時価によるものとし、時価とは課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額はこの通達の定めによって評価した価額による』

前半の不特定多数の価額(前半部分)は良いとして、通達の定めによる価額(後半部分)が同じであると決めつけており、日本語として整合性がとれているとは思えません。つまり、この文章を厳密に捉えるなら、不特定多数の当事者間における時価と国税庁が決めた通達上の時価を同一視していることになります。なお、相続税法22条には「取得時の時価による」と記載されています。

第二二条 この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額はその時の現況による。

この取得時の時価だととても分かりにくいので、国税庁は道路上に路線価なるものを設定して評価をし易いように国民の便宜を図っています。この路線価は公示価格の80%程度に抑えてあるので、納税者有利に働いていることも事実ですが、これから当紙面上で長々と続く指摘する事例地のような、どうしようもない不利な条件下にある土地などの場合を想定していないのです。しかも、今回の4月19日最高裁判決では、この通達に対して一定の歯止めを打ち込んでいます。評価通達は、「上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発出した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的根拠を有するというべき根拠は見当たらない(以下略)」とされており、国民はこの方式により評価した価額が時価として矛盾するならば、不動産鑑定士による鑑定評価により適正な時価を出したうえで申告することも可能ということになります。

しかし、多くの税理士等の専門家は、昭和39年以来続く路線価評価方式で評価したもので申請すれば、国税庁から否認されるリスクがほぼないので、現状に慣れきっているということが問題なのです。

さらに、下記の点が鑑定評価を採用することが出来ない理由として掲げられます。

① そもそも論として鑑定評価が申告時において認められることを知らない

② 鑑定評価を採用したら、税務調査の頻度が高まるのでやりたくない

③ 過去、鑑定評価で申告したが、否認されたのでもうやりたくない

④ 信頼できる不動産鑑定士を知らない

適正な不動産の時価を把握した不動産鑑定士を活用することで、顧客に寄り添った財産評価が出来ると考えます。

Let’s try 東京アプレイザル土地評価 実力判定テスト

Q12の答え 「誤り」

地方都市に所在する古い3階建て賃貸マンションである。このような物件は路線価評価による価額で売れる可能性は相当低いため、収益価格を中心にした評価も考慮すべきである。

 

 

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