本件は平成29年5月23日の札幌国税不服審判所の裁決書から戦端が始まりました。納税者の審査請求は棄却されました。この裁決書の内容をチェックします。

原処分庁(南税務署)の主張が興味深い内容です。

「通達6は、通達に定める評価方法を画一的に適用した場合には、適正な時価が求められず、その評価額が時価、すなわち、客観的な交換価値からかけ離れて不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合も生じることが考えられることから、そのような場合には、客観的な交換価値を個別に評価し、適正な時価評価を行うことが出来るようにする趣旨で定められたものであり、その射程には通達評価額が時価を上回るだけでなく下回る場合も含まれる」

ここで、要注目は通達評価より時価が上回る場合にも言及していることです。

さらに、

「本件鑑定評価額は収益還元法における純収益や各種利回りの査定も、(略)、客観的で信頼性の高いものであるため、時価を合理的に算定しているものと認められる。なお、鑑定評価額に係る最終還元利回りは、(略)、将来の不確実性も踏まえた信頼性の高いものである。」

おいおい、税務署はいつからこんなに収益還元法(収益価格)を認める姿勢になったのか?

鑑定書をベタ褒めしています。先ほど私が述べたように、通達評価が時価を上回る場合にも、このような判断をしてくれるのか?疑問です。大昔は、「収益価格など利回りでどうにもなるから認めない」などといわれていました。

ちなみにこの鑑定書はごく普通の出来栄えです。よって、それなりの能力の不動産鑑定士なら、ほとんど同様の内容になります。

追記:多くのマスコミや税理士のコメントや解説において、今回の対象不動産を「タワーマンション節税」と表記していますが、全くの誤りです。

① タワーマンションの土地評価は敷地権の持ち分と区分建物の評価ですが、今回の物件は一棟物の共同住宅(賃貸マンション)なので、いわゆるマンションではありません。

② それと、圧倒的に違うのは、収益価格をほぼ全面的に支持し評価したことです。これはタワーマンションではあり得ません。もちろん、タワーマンションを他人に貸した場合は収益価格になる可能性はありますが。議論が複雑になるのでこれは止めます。

いずれにしても専門家は、これをタワーマンションと呼ぶのは恥ずかしいのでやめましょう。

※タワーマンションという呼び方は建築基準法上はありません。階数が20階以上、高さが60mを超える住居系の建物をいいます。不動産、建築業界の習慣上の呼称とのことです。

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Q12

三大市圏以外に所在し、東京都心まで2時間を要する。土地面積は900㎡、建築後30年経過した鉄骨造3階建賃貸マンションがある。最寄駅から20分と遠く、慢性的には空室率は25%を超えていて、家賃も継続的に下落している。相続税申告の評価は「貸家建付地+貸家」になるが、この場合、他の評価方法により時価を算定する必要はない。

 

 

 

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