相続税評価否認事件、最高裁判決に一言いや二言 (ただし、不動産鑑定士の立場からです)。

そもそもの財産評価基本通達の規定自体に問題ありと考えます。

収益物件の評価は

① 土地は正面路線価に貸家建付地評価減 (今回は借地権割合0.7 ✕ 借家権割合 0.3 = 0.21)

② 建物は固定資産税評価額 ✕ 0.7(借家権)という評価方法

積算価格から立ち退き料を控除するという前時代的な評価方法です。もちろん、築40年を超えるなど、かなりのボロ物件で賃借人を立ち退かせて更地化すれば大化けするような特殊な事情等があれば別ですが。

つまり、最有効使用状態にある一般的な収益物件は、貸すことが本来の目的なので、賃借権を控除するという考え方は適正な価格を導くための目的からは遠く外れます。

よって、通達評価は不動産業界では、ほとんど実務に使えないというのは常識です。はっきりいって未だに収益価格の概念を取り入れないのは、国税庁の財産評価基本通達と固定資産税評価基準だけです。これは30年前と変わっていません。

 

鑑定評価基準は平成15年度にDCF法による収益価格が正式に採用されました。よって、当該物件は家賃収入がいくらか、その継続性に問題がないか、今後の必要諸経費はどうか、還元利回りはどの位に設定するか等々が肝となります。

今回の国税不服審判所の鑑定評価では、純収益利回りを5.6%(杉並区物件)、5.7%(川崎市物件)で設定しています。これは、価格時点が平成24年当時なので、現在より0.5%~0.8%程度高めの利回りを採用しています。私見ですが、概ね適正な鑑定評価だと思料します。

更に現状では、コロナ禍といえども特に都心部の収益物件は人気があるので、いまや通達評価の2〜3倍は常識です。つまり、条件の良い土地柄にある収益物件は、借地権や借家権を控除する必要などないのです。貸家建付地評価減などは必要ありません。

ただし、例外があります。

用途地域が1低専50/100にある収益物件です。これはそもそも論で、1低専の最有効使用は戸建て専用住宅なので、収益性にかなり劣ります。よって、これらは貸家建付地の概念はあって然るべきと考えます。ただし、貸家建付地評価減を採用してもその価格で売却できないことがあるので厄介な話です。

さらに、まだあります。地方都市などの築年が古く空室の多い収益物件などは、路線価評価では売れないことがしばしばあります。

はっきり言います。国税庁は収益価格の概念を全く採って来なかったことが、今回事件の本質です。

不動産業界、鑑定業界の常識は国税庁の非常識。

そろそろ、せめて都心部収益物件は、通達が全く役に立たないことを認識して、評価規定を見直すべきだと思います。

前時代的な評価方法を見直さない限り、この基本通達6項を発動して時価評価を依頼する事案は後を絶たないでしょう。

この極めて矛盾する評価のあり方がようやく世間に知られることになりました。

 

 

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