不動産の負け組が負動産といわれているが、一体どのようなものか私なりに考えてみました。

大都市圏・地方都市圏・過疎地域及び別荘地の4つに大別されると思われます。負動産の特徴としては売却困難性が極めて高いか場合によれば売れないということです。すぐ売れる可能性があれば勝ち組不動産あるいは価値不動産と言われます。ではこれらの具体的な特徴を解説します。

 

 

① 大都市圏における郊外型不動産

これらの多くは昭和40年代~50年代に開発分譲された大規模住宅団地です。団塊世代の多くの勝ち組サラリーマンがこれを購入しましたが3,000~4,000万程度でした。これがバブル時には何と8,000万円~1億円程度まで値上がりし、これを担保にして余計な投資をした人もいました。このように一時は勝ち組と言われたものの現在は買った時を大きく下回り1,500万円~2,000万程度になっています。しかし、都心には1.5時間~2時間ほどかかるので、団塊ジュニアと呼ばれる息子、娘は実家を出て通勤利便性のよい都心マンションで暮らしています。よって親に相続が発生しても戻って住むことはなくこれが空き家になる可能性が高いのです(空き家予備軍)。

とはいえ、都心部に通える限界ではあるものの全く売れないことではありません。しかし団塊世代が後期高齢者になるに従い建物も古くなるため空き家率は高まるでしょう。当然価格も下がって行くものと思われます。あまり悲観的なことを書くとお叱りを受けるかもしれませんが、地方都市並みの値段になる可能性があります。しかしそれはそれで若い人や低所得層には有難いことだと思います。

② 地方都市圏(人口10万~50万人)

ほとんどの若者は中堅都市や大都市圏に就学・就職するため、故郷を離れる宿命を背負っています。「なごり雪」や「木綿のハンカチーフ」の世界です。これも構造的には①と同じですが、残された親は子供を育てるとその使命は終わり老老介護になります。悲しいですが現実です。息子と娘は帰って来ません。相続後、実家の家は住み手がいなくなります。実際に東京アプレイザルで鑑定依頼を受けた例として北九州市の土地面積1,500㎡の豪邸(空き家)がありました。相続税評価額3,500万円でしたが、鑑定評価額を1,700万円としました。一年後にようやく売却出来た価格が1,800万円でした。これはまだいい方です。聞くところによると地元の医師が買ったそうです。

このように売却時はかなりの困難性が伴います。ますます需要が見込めなくなります。親が生きている時から兄弟間で話し合うべきです。

③ 過疎地域 (人口5,000人~4万人程度)

多くの町・村が該当します。私もこれに当てはまります。若者の就職先がないので90%程度は高校を卒業すると流出せざるを得ません。北海道の人は札幌市が東京です。私の留萌高校の同級生はほとんどが札幌で就職しています。地元の人には申し訳ないのですが、この地域こそ負動産の典型例です。売れる可能性が極めて薄くなり投げ売り同然となります。私の実家も8年前に90万円で奇跡的に売れました。母親はタダでもいいといっていたので喜んでくれました。古い家を残していくのは近所に申し訳ないと。売れなければ空き家になる運命にありました。母親はとにかく綺麗好きでしたので建物はしっかりしていました。なので、値段がつきました。不動産鑑定士をやっていて初めて親孝行出来ました。町の不動産屋さんに家を売って下さいと訪ねたところ、「その地域は値がつかないから無理だよ」といわれました。

完全に素人扱いでした。仕方がないので名刺を出すと途端に態度が変わり「あっ、先生でしたか」といわれたので「出来れば100万ほどで出してくれませんか」と頼みました。「とりあえずやってみましょう」と引き受けてくれました。

その後、何と3週間後にお客さんがついたと連絡がありました。80万なら買いたいと。母親はそれでいいよといいましたが、ちょっと待てと。これでも不動産業者の端くれです。「分かりました。でも真ん中を取って90万でどうですか」と交渉しました。3日後にその業者さんから、それでまとめたいとの返事が来ました。

たかだか10万の値上げでも母親の役に立つことが出来ました。いい息子を持って幸せだといってくれました。

空き家の話がとんだ自慢話になってしまいました。ついでに私の母親は父が亡くなってから約25年間は一人暮らしでした。雪深い地域でしたので雪に殺されるといって、84歳の時に故郷を離れる決意をしてくれました。今は札幌の施設に入居しています。認知症もなくあちこちガタが来ているといって元気に暮らしています。

④ 別荘地 

軽井沢など有名別荘地はともかく、名のない別荘地が多く存在します。これらは団塊世代の親が買ったケースが多いので、築年は50年を超えるものが少なくありません。その息子や娘や孫も行きません。これらのほとんどは趣味の世界になるので不動産の価値を見出すことは出来ません。

なお、売る場合は建物が非常に重要で、住める状態かリフォームが出来るかで価格が付きます。土地の面積はほとんど関係ありません。極端に言えば500㎡も1,000㎡も変わりません。だから土地単価を面積に掛ける業者さんがいれば怪しいと思った方が良いでしょう(これは私の個人的見解もあるので100%は信じないでください)。

これも個人的見解ですが、女性(奥さん)は遊びに行っても家事はしたくないので別荘はいりません。男の甲斐性なのか別荘は男の論理です。女性は会員制ホテルやリゾートホテルで上げ膳据え膳が良いに決まっています。また、別荘はいつも同じ風景と同じレストランに行くしかないので飽きるのです。違う場所やホテルに行った方が良いでしょ。ということで、別荘地も典型的な所有上の自己満足不動産です(ただし持てない人のヒガミあり) 。

それとついでにいうと、リゾートマンションです。「私をスキーに連れてって」に代表されるスキーリゾートの悲惨な現状を見るとわかります。さらに築50年を超える温泉付きリゾートマンションは毎月の管理費が4万以上します。売れるに売れない典型的な事例です。

上記の問題を解決するにはどのようにしたら良いですか? という問いがありました。

これらの不動産に共通することがあります。全てが、やがて相続を迎えるということです。買ったときは自分が年老いて死んでいくなどはあまり想定していませんでした。そしてこれらが負動産になり子供たちを苦しめることになるなどは考えてもいませんでした。

とにかく、現状の把握をすることこれらの不動産を所有していることの認識が必要です。たぶん、あまり考えていない人が多いのではないでしょうか。どちらかの親が住んでいるうちはそのままにするしかないのですが、施設に入ればこの家をどうするかを考えるべきです。

なお、売れそうもない時は貸す手はあります。つまり、土地の価値はなくても建物の価値はある。これからの価値創造は土地ではありません。人は建物に住むからです。よって、管理を重視すべきです。

地元にいる家のない人も300万円は出せないが、毎月3万円は出せます。あるいは全国的な空き家借り手の組織を利用して貸せる家にすべきです。大事なのは揉めない相続をすることです。負動産を価値不動産に転換するためには、地元の不動産管理業者や建築会社との接点を持つことです。

さらに、相続の知識と知恵を身に着けることで、実家や我が家の相続に思いを果たす術を身に着けることも重要です。できれば相続の専門家のネットワークに入ることなど、努力が必要と思われます。


 

★YouTubeはじめました!チャンネル登録お願いします。

不動産鑑定士《芳賀則人の言いたい放題》 (別リンクに飛びます。)