まずはAIが進むことによる影響の前に不動産鑑定士は何をやっているかを知っていただく必要があります。

不動産鑑定士にとって最もと言っていいほど重要な業務は、地価公示法に基づく地価公示価格(毎年1月1日付けの評価額が公示される)の鑑定評価があります。この業務には全ての不動産鑑定士が携わっているわけではありませんが、全国で約3,200人位の鑑定士が行っている業務です。(私も昭和58年~平成25年度まで公示価格の評価員でした)

この公示価格は相続税評価の元になる路線価(公示価格の80%程度に設定)と固定資産税評価(公示価格の70%に設定)の大元を担っていることは周知の通りです。

公示価格は国土交通省より毎年3月20日頃に発表されますので、国がエイヤッと決めたかのように見えますが、実は公示地点を毎年毎年、不動産鑑定士が周辺の取引事例を収集・選択・分析して対象不動産である公示地の鑑定評価を行っているのです。公示地は更地(土地上に何も建っていない)であり、整形な土地を条件とします。ですから鑑定評価の類型としては基本的な案件であり難易度は高くありません。

しかし、1公示地点の評価において取引事例を5ヶ所程度集めそれとの要因比較により公示価格を算定するのですが、1年前との時点修正率をどのように判断するのかがやや難しい判断が要ります。この取引事例が昨年度のものと比べて明らかに高ければ変動率はプラスになりますし、低ければマイナスになります。この判断は人間でやっているのが現状です。

また、先ほど要因の比較をすると述べましたが、4つの要因があります。①交通接近条件(駅への距離)②街路条件(道路幅員)③環境条件(雰囲気等)④行政条件(用途地域や容積率)。これが鑑定評価において最も重要で基本です。

この4つの項目で私がいつも悩むのは③の環境条件です。他の3つは全て定量化(数値化)できますが、環境条件は人による価値観が違うと同様にその地域の雰囲気とか居住性を数値化することを求められますので、この判断は極めて難しいと思っています。

つまり人間の感性(この感性が人によって違うので困ります)に頼っているのが、現状の鑑定評価です。また、商業地域はもっと複雑です。駅からの距離が50mいや10m違うだけで、また、道路1本違うだけで人の流れが大きく異なることがあります。それだけで価格が倍になったり半分になったりします。

ただし、商業地域はそのビルの家賃が分かれば収益性が判断できます。収益価格が評価を決める大きなポイントであることは論を待たないでしょう。しかし、利回りも未だに不動産鑑定士の判断によるところが大きいのです。

ここで今までの論をAI化が可能かどうか考えて見ます。

まずは取引事例の分析です。ただし、今のところ全ての売買取引を事例化する仕組みが確立されていません。国土交通省により取引当事者にその値段はいくらだったかをアンケ―ト方式によりお願いベースで聞くに止まっています。

公示地1ポイントごとに比較可能なものはせいぜい10件ぐらいの事例しかありません。AIを使うほどのデータが揃っていないのが実情です。これを使うにはすべての取引当時者に強制的に価格の提示をさせて、データベース化が必要です。個人情報法との兼ね合いでここがネックになると思います。

逆にいうと、取引事例、例えば市区町村ごとに何千件単位の数が揃い、環境条件を町や丁ごとに数値化させ、さらに個別的な要因の格差付けを決めておけば大いに可能性が出て来ます。これは相続税の路線価評価も固定資産税評価も同様です。あくまでも私の感覚ですが、5年後には公示地のAI化が進んでいる気がします。

また、先に述べた収益価格を決める最も重要な還元利回りも多くのデータベース(物件によってかなり異なるのでデータ化が困難かも)が必要になりますので簡単ではありません。

しかし、一般の鑑定評価において標準的な土地の鑑定はそれほど頻度が高くありません。特に郊外地主層が所有する土地は(元々の農地が切り売りされたり、道路や公園に取られたり、ハウスメーカーの言うままに建てたりとか)相続において相続人の間で分割する上でも、難しい判断がいる、かなり個性豊かな土地が多いのが実態です。

また、会社(中小企業や同族法人)所有地は権利関係が複雑なケースが多いのが特徴です。親会社・子会社・社長親族共有などでぐちゃぐちゃな状態です。

つまり、公示地のような典型的な更地や標準的な土地は少ないのです。いわば、個性の塊のような土地を持っている人々にとって、単なる土地評価をすれば良いということではなく、人との関係性の中において土地評価の位置づけがあるということです。

分かりやすく言うとコンサルタント的な要素が土地評価に組み込まれないと、そのお客様の役に立たないということです。少し大げさですが、人の心の中に土地評価があるのかもしれません。

これは不動産鑑定の世界だけではないと思われます。建築の世界でも不動産の売買仲介の世界でも、生命保険の世界でもその人の生活事情や資産背景などが大きく関わって来ます。ただし、機械的な計算や判断ですむ分野等、AIに任せることは今後どんどん進歩するでしょう。

※ なお、この文章は㈱清文社様のご好意により、「Web情報誌プロフェッションジャーナル」に初掲載していただく記事より引用しました。

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