平成29年10月17日(火)に、代表・芳賀則人が、株式会社K’sプライベートコンサルティング代表取締役・公認会計士/税理士の金井義家先生のセミナーにゲストとしてお招きいただき、対談を行ないました。
今回は「こんにちは、芳賀則人です」の特別編として、対談風景をお届けいたします。
鑑定評価による相続税申告はどこまで認められるのか!?
~実はあなたも相続税を払い過ぎているかもしれない!~
金井 それではこれより対談の方を始めたいと思います。今回は『鑑定評価による相続税申告はどこまで認められるのか~実はあなたも相続税を払い過ぎているかもしれない!~』ということで、東京アプレイザルの不動産鑑定士、芳賀 則人 先生にお越しいただきました。
芳賀先生といえば、資産税の世界においての重鎮中の重鎮ということで、私も資産税の仕事に携わり始めた頃、よく先輩に「芳賀先生の講義は聴きに行きなさい」と言われ、新人の頃から勉強させていただきました。また、最初に講師として使っていただいたのは芳賀先生の東京アプレイザルということもあり、今の自分と弊社があるのは芳賀先生から頂いたチャンスのおかげと考えております。
今回は、不動産鑑定と相続税ということなのですが、相続税を申告する際の土地の評価は、国税庁の評価通達=マニュアルに基づくことが基本とされています。しかし、通達通りに評価すると、おかしな金額がでてくることがごく稀に存在します。このような場合に不動産鑑定評価に基づく相続税の申告が認められるのです。最も、通達を適応する場合と鑑定評価を適応する場合の線引きかが難しく、専門家でないと理解できません。
芳賀先生は、不動産鑑定と相続税という分野に長年専門分野として、前述の線引きについてや、税制が改正されます広大地の分野にも詳しく、このような話題について色々お伺いしようと思います。芳賀先生、よろしくお願いします。
芳賀 はい。東京アプレイザルの芳賀と申します。ちなみに先程、金井さんから「重鎮」といただきましたが、「重鎮」ではありませんので(笑)
私は不動産鑑定士というのは、相続の分野では野球で例えると「ライト」の「9番」なんですよね。エースは相続税を申告する税理士さんなんですよ。他の士業だと司法書士さんがキャッチャーで、弁護士は番外でしょうか。弁護士にお世話になるということは、相当もめちゃっているのでね。(弁護士の方ごめんなさい(笑))
私は平成4年から、路線価評価以外の鑑定評価を適応する仕事に25年関わってきました。皆さんご存知かと思うのですが森田 義男さんという不動産鑑定士がいらっしゃいます。自分の中では森田先生を師匠と思っているのですが、この方が平成3年に、路線価による評価が場合によっては異常な評価額になりますよっていう本を書いたんですね。この本に触発されてこの業界に入ったわけです。
恐らく不動産鑑定士で相続税の申告や更正請求等を累積でやってきたのは私が初めてと考えています。この仕事を25年続けてきましたが、まだまだ伝わっていない相続に関わる情報も多いのです。例えば金井さんが講義の中で「底地」についての話題がありましたが、底地の買い手として一般の方はほとんどいないんですよね。底地評価は普通住宅地区では更地の40%というのは実は高すぎるんです。今回は底地については割愛しますが、他にも評価が異常な土地が世の中にいっぱい存在するんです。
ただですね基本は通達評価なんです。私は通達評価を否定しているわけではありません。地主さんが20箇所土地をお持ちなら、必ず1~2箇所は、通達評価では異常な評価額になる変な土地があるんです。こうした変な土地に鑑定評価を適応することが基本なんですよ。この点をご理解の上こういった実情を広めるために、今回登壇させていただきました。今日、私にお会いする方も多くいらっしゃると思いますが、是非、路線価評価が全てではないということをご認識いただきたいと思います。
相続税における不動産評価は「財産評価基本通達」が絶対じゃないの!?
金井 ありがとうございます。それでは内容に移りたいと思います。先ほどお話にあったように、相続税の評価は国税庁の通達評価に基づくのが基本原則なのですが、正直申しますと、税務署の方と仕事していると、担当官の中には通達評価にこだわる人もいると思います。一方で鑑定評価が認められているケースも裁判でも不服審判でもあるということなのですが、ある一定規模以上の土地オーナーがいたときに、通達評価が異常な土地は必ずあるものなのでしょうか。
芳賀 はい。これは、都心部・郊外に関わらずあります。本来であればこうした土地を見つけるのは税理士の役割なのでしょうが、正直申しますと、通達評価が通用しない土地が存在することをほとんどの税理士は理解していないと思います。例えば建築基準の道路、2メートル接道義務というものがありますが、これさえも理解していない税理士が多いのです。路線価50万で、間口1メートルで500平米の土地があったとすると、間口1メートルの土地が1億5千万円という評価になってしまったりする。通達通りの評価でやってしまうと、実際の土地の値打ちから乖離した、おかしな評価額が出てくることがあるのです。みなさん、間口1メートル500平米の土地を1億5千万円で買いますか?
金井 いや無理ですよね。何らかの対策を講じないと、土地を有効活用できないですよね。
芳賀 そうなんですよ。建物も建ちませんので。そうした土地を鑑定で評価するのですが、これはこれで難しいですが、ざっくり言うと建築確認不可の土地の評価は、あくまで目安ですが、標準的な宅地の、3掛け程度の評価しかいきませんね。このような例が、私の会社では年に1~2件はあります。不動産鑑定士にしかできないことですが、過去の取引事例に基づいて鑑定書を作るんですね。こうして出来た鑑定評価に基づいた申告は、私の会社では約98%が通っています。
金井 鑑定評価をつけて申告するとなると、通達評価とは違う価額になりますよね。そうすると税務署からしたら面白くないじゃないですか。税務調査が入るとか・・・。
芳賀 ええ、税務調査が必ず入ると思ってやっています。
金井 必ず入る(笑)そうすると、芳賀先生の申告は最終的にどれぐらいの割合で税務署に認められているのでしょうか。
芳賀 「鑑定評価の是認割合は平均60%」と仰る先生がいらっしゃいましたが、60%でしたら私の会社は倒産しているでしょうね(笑)ざっくり言うと98%の確率で通っております。そのかわりきちんと鑑定評価でいけるか通達評価で問題ないかきちんと選別した上での確率ですが。できないものはできませんというスタンスです。公図・住宅地図・基礎資料をいただいて、通達評価と鑑定評価をそれぞれ算定して照らし合わせます。概算を見積もった上で税理士さんと話し合い、正式発注をいただくようにしています。
鑑定評価で相続税申告をしたら、税務署から目をつけられたりしない?
金井 そうなると、申告の是非はともかくとして、税務署の担当官からすれば面白くないと思われますが。
芳賀 もう100%面白くないでしょうね。
金井 そうすると税務署と色々議論を重ねることになりそうですが、そうした税務署とのやり取りの中で、芳賀先生の武勇伝みたいなものがあれば(笑)
芳賀 武勇伝といっても25年もこうしたことやっているのでね。最初の5年間は鑑定士のやり方でやっておりましたが、結構否認されました。でもこの10年くらいはですね、国税局で東京アプレイザルが有名になっちゃったものですからね。
金井 ええ、そう思います(笑)
芳賀 ですから「また東京アプレイザルか」みたいなことに。ですが決して無茶な申告はしません。相当慎重にやるようにしておりますので。申告の是非で不服審判所には十数回行ってます。
金井 不服審判所十数回ですか、それは多いですね。
芳賀 多いですね。行きたくないんですけど(笑)裁判もやってます。
金井 裁判もですか。すごいですね。
芳賀 はい。勝ったり負けたりですけど。今お話したことはこの本に全部書いてますけど、少なくとも今までの25年の中で30件から40件は負けてるかと思います。ですが3000件の実績を持ってますので。なので98%~99%で申告が通るというわけなのです。
実際にどんな場合だと鑑定評価が認められることがあるの?
金井 そうするとですね。今不動産オーナーの相続の問題が難しくなってきているでしょうが、鑑定評価による申告が通るはずなのに通達で出している例も、相当多いのではないでしょうか?
芳賀 私の感覚では申告の98%がそうだとおもいますよ(笑)
金井 それは相当数ですね(笑)
芳賀 相続税評価時に、ほとんどが不動産鑑定士を使ってないですから。うちの年間の案件数で、広大地で三百数十箇所、相続税の申告で百件あるかないかです。一都三県でこの数が、年間の相続税案件の全てということはないですから、恐らく全国で1%くらいしか使ってないんじゃないでしょうか。
金井 あの、貸宅地って鑑定評価でいけるんですかね?
芳賀 これはいけるのといけないのがあります。負けた例が挙げるのですが、某税理士事務所からの相続税の更正請求についての案件でした。13箇所の底地を持ってた地主さんがいたのですが、底地評価1億1500万で申告しました。これは路線価に基づく評価です。
金井 通達評価によるものですね。
芳賀 ええ。そして、納税資金のために売るのですが、A社が6800万でB社が5200万か5500万かな?C社が5100万による三者入札です。みんな大手企業の入札ですね。
金井 底地買取業者ですね。
芳賀 そう。すると6800万の人が落札するわけですよね。路線価評価が1億1500万で売却額が6800万、売却額が時価と思うじゃないですか。
金井 ええ。
芳賀 そうしたら私のところに「6800万で売却した底地がありました。検証のため鑑定をやってください」という依頼がきました。既に売れてるんだから、6800万が時価と思いますよね。そこで鑑定評価5700万ぐらいの評価で、6800万の売却額は時価として妥当であるという鑑定を提出しました。
金井 相続税更正の請求だったんですね。
芳賀 そう。それで某税務署が更正請求したら、否認になってしまった。異議申し立てもして、不服審判所にも行きましたが、ダメでしたと。不服審判所の意見書は、ざっくり言うと「底地買取業者が買ったので、明らかに時価としては低すぎる」というものでした。三者入札で落札したのだから、妥当な金額なはずでしょう。
金井 確かに三者で入札しているのですよね。納税資金に困ってて売り急ぎで一者だけの入札だったみたいなことならばそのとおりなのでしょうが・・・。そういうのがあったわけでもない。
芳賀 そんなことはないと思いますよ。大手仲介会社も絡んでやってますので、妥当な売却額だと思います。そもそも底地については、40%では高すぎるんですよ。
金井 収益還元で言ったら、絶対そんな金額出ませんよね。
芳賀 ええ、全然出ません。たぶん10%くらいしか出ません。一方で、当初申告で認められたケースもあります。これはですね、43箇所の底地なんです。全部で4400平米、一筆ですね。それで43人借地人がおります。これ5~6年前の話なんですけど。これが路線価評価で計算すると3億なんですよ。納税資金のために売却すると、一番上の入札で2億円。この金額で落札されました。その後、某財産コンサル会社から私のところに依頼が来まして、「時価2億円ということで、万一税務署が否認したときのことも考えて鑑定評価を検証したい」ということで、引き受けました。すると鑑定評価額1億5000万しか出ません。それで鑑定書を提出して、最後には税務署に2億円で申告しました。これは大丈夫だった。
金井 今のお話だと、通達よりも売れた金額が低かったわけじゃないですか。売れた金額で申告するとたまに税務署が文句を言ってきたりするんですけどね。さらにその逆の例もあってですね、通達の金額よりも高く売れてしまったんですよ。亡くなる2日前に登記を変えたりしたのが、この申告は売れた金額で出せと税務署が言ってきた。つまり「売れた金額より通達評価が高ければ、売れた金額で申告したら否認」「通達評価より売れた金額が高ければ、通達評価で申告すると否認」になるわけですよ。まあ、このケースには契約と引渡しの間に亡くなった事例なので、否認の理由は正しいんですけれども、いいとこ取りと思うところもあるんですよね。だけど審判所もね・・・。
芳賀 審判所も悲しいかな、国税寄りですね。
金井 そうですよね。税務調査ってサッカーと違って、審判も相手国の人間というかなり分の悪い勝負の世界ですからね。イランと試合するのに審判の人全員イラン人みたいな。そんな中で試合するのですからそりゃ大変なわけですよね。
他の不動産鑑定士とは違う分野を選択した理由
金井 じゃあ、次の質問なんですけれども、通常、不動産鑑定士は国からの仕事で食べている人が多いと思うんですよね、路線価や公示価格の調査とか。芳賀先生は他の不動産鑑定士の先生とは全く違う分野を選択した理由は何かございますか?
芳賀 いや、私も地価公示鑑定評価員を30年やりましたし、税務署の路線価評価精通者も15年間やりましたので、決して税務署を目の敵としているわけではないのです。税務署から10年表彰もされましたからね。ただ19年にクビになったんですね(笑)
金井 それってやっぱり先ほどのように、税務署へ鑑定評価を出してくるからじゃ・・・。
芳賀 そのとおりです(笑)ただ私としては正しい仕事をやってるつもりなんですよ。適正な評価をすると評価額が低くなりましたっていうだけのことで、恣意的に価額を下げているということはしないんです。この点はとても注意します。「あえて低い価額を出そう」というような恣意性があると申告を通す上で、隙になってしまいます。『「絶対この価額だ」という鑑定評価に自分の信念が伴えば、何の怖いこともない。』そう考えてやってます。平成4年以前は、金融機関担保評価を提出する仕事もやっておりました。
金井 昔の住専とか・・・。
芳賀 そうです!例えば金井さんのご出身である北海道拓殖銀行なんかもやっていたような。
金井 ありましたね~。もう大問題になったやつで。
芳賀 拓銀抵当証券というやつです。みんな潰れましたけど。
金井 みんな潰れてみんななくなっちゃいましたね。
芳賀 私はそのようなところの手足となって動いていたわけですよ(笑)ただ問題になって全部潰れちゃった。そうなったとき、平成4年に路線価評価が公示価格の80%になりまして、「ひょっとして鑑定評価が相続税申告に使えるのでは?」と考え、税理士さんに営業をかけた。こういう流れなわけです。
金井 なるほどですね。ちなみに東京アプレイザルは、セミナー事業もかなりの規模があるわけですけれども、これを始めたきっかけというのは?
芳賀 セミナー事業は平成7年からはじめたのですが、要は不動産鑑定士って世の中の知名度が本当に無いんですよ、今でも。恐ろしいくらいに知名度が無い。
金井 専門家の世界では有名ですけどね。一般の人には・・・。
芳賀 ほとんど知名度がないんです。昔、女房が井戸端会議で「あなたの旦那さんの仕事は?」と聞かれて、不動産鑑定士と言うとわからないから「不動産屋です」って言ったことがあって(笑)
金井 不動産会社と言われれば、確かにわかりますが(笑)
芳賀 知名度はその頃と変わってないですよ。それをどうやったら改善できるかと考えて、「不動産鑑定士が何をやっているか」を伝えたかったんですよ。なので不動産業者さんを集めて、私が鑑定評価の講座をやったんですよ。「鑑定評価をこういうふうに使ってください」と。それがきっかけですね。
金井 いや、本当にすばらしいと思います。我々専門家は、やっぱり自分達の付加価値をちゃんとアピールしないといけないと思うんですよね。黙っていてもお客様に自分達の仕事をわかってもらえないですしね。わかってもらうための努力をしないといけないんですよね。
「広大地」の税制改正で、一部の不動産オーナーの相続税が激増!?
金井 次に、広大地についての質問に移りたいと思うのですが、これちょっと不動産に関わる人以外だとわからないと思うので、簡単に説明します。芳賀先生が非常に得意とする分野に、「広大地」という考え方があります。不動産オーナーが持つ「すごく大きな土地」があったとき、あまりにも大きすぎると「生産性」が落ちるんですよ。大きすぎても小さすぎてもいけない。だから一坪あたりの不動産の価値が下がってしまうんですね。なので「価値が落ちてしまった分だけ相続税も安くしてあげようじゃないか」、これを「広大地」という制度で、相続税法上認められているんです。ところが、土地が大きいだけではダメで、その他のいくつかの条件を満たすと広大地として認められる。ところが、広大地の判断基準が、実務上あいまいで、担当官によって言うことが違ったりするのですね。しかも、広大地と「認められた場合」と「認められない場合」で、相続税額が半分違ったりするわけです。ですから納税する側からすると「死活問題」と言えるわけです。広大地については、こうした「アンフェアな実態が存在する」ことを今年の税制改正の文言で国税庁は認めています。そこで芳賀先生に、広大地を認めてもらうときのサポートをお願いすることがあるんですが、もうちょっと具体的なお話と、先生のサポートについて教えていただきたいと思うのですが。
芳賀 皆さんが広大地についてどのように理解されているかというところもあるんですが、基本的に首都圏では、一利用単位で500平米以上で、広大地に該当するかという基準になります。ただ細かい話になりますが、500平米以下でも認めてくれることもよくあるんですね。そして、広大地の最低要件として、「マンション適地でないこと」「戸建て用地にするにあたって、道路を開設する必要があること」という2つがあります。ただ、ここで判断が難しいのは、土地にマンションが建っているときで、うちの案件ではないのですが、去年8階建て賃貸マンションが建っている土地が広大地として認められてしまった事例があるんですよ。また先月6階建て賃貸マンションが更正請求で認められました。これらは色んな理屈付けがあるんですね。不動産鑑定士のノウハウが無いと対応できない領域になってきます。そもそも、広大地の概念は、不動産鑑定から来ています。税制改正後の「広大地」に変わる概念である、「地積規模の大きな宅地」というのも同様です。ですから税理士さんが必要であれば、鑑定の部分でサポートをしているということになります。なので、気になるという方がいらっしゃいましたら是非ご相談ください。まだ更正請求もまだ5年間ありますしね。
金井 そうですね。ただ更正請求ができる期間は、亡くなった日基準で5年間10ヶ月までですからね。先ほどの「マンションに広大地」というお話は、「マンション適地」がダメなのであって、マンション建ててはいけないところでマンションを建てる分には大丈夫というお話ですよね。
芳賀 そういうことです。
金井 僕もそれで争ったことがあるんですよ。「マンションが建っているんですが「空室だらけ」で、周りの不動産が戸建てばかりみたいな状態だと、間違って建ててしまったんじゃないか」、ざっくり言うとこういう理屈だったんですよ。だから「このマンションは間違って建てたんだから、空室だらけなんだ」という理屈が、認められたりするんですね。ただ、担当官がすんなり認めてくれることはないですから、そうなった場合に専門家のサポートがあったほうがいいと思いますね。ただ「マンション適地」の例はまだいい方で、「敷地延長の私道」など、不動産鑑定の専門家でないともっとわからない問題が一杯あったりするんです。税理士にも、担当官にも、裁判官にもわからないというものなんです。
金井 この広大地の制度なんですけれども、先ほど芳賀先生も仰ったように、来年から変わって、「地積規模の大きな宅地」に変わります。国税庁が持つ、広大地についての問題意識は主に2つで、まず「判断基準があいまいで、アンフェアな実務の実態がある」こと。もうひとつは「広大地として認めた場合、相続税を安くしすぎてはないか」ということなんです。ですので、今回税制改正する際、広大地の制度を改善すべき点として、「判断基準を明確でフェアにしましょう」「相続税を安くしすぎているので、直しましょう」という2点を要点として、来年1月1日以降の相続発生から、広大地の制度が使えなくなります。来年以降の「地積規模の大きな宅地」では、これまでのようにあいまいな適用要件ではなく、かなりフェアな制度になったかと思います。ただ広大地のときと比べてあまり税額が優遇されないと思うのですが、この辺いかがでしょう?不動産オーナーの相続税が増えると見て・・・。
芳賀 もう大増税ですね。
金井 大増税ですよね。
芳賀 大体ですけれども、500平米の規模で、30%アップの鑑定評価、それから5000平米の規模で75%アップという評価額になります。この税制改正を受けて、「相続時精算課税を使って今年中に広大地評価で生前贈与しよう」という案件が急増してます。
金井 僕が、贈与だと気になるのが、登録免許税の面が相続の場合より結構負担になるのでその点がちょっと・・・。
芳賀 もちろん何千万単位の案件だと、このやり方はだめでしょうね。ただ一億以上の案件であれば、相当メリットが出てくるかと。
金井 そうですよね。じゃあ「一概に」ということではなくって、「選んで」ということで。
芳賀 そうですね。全部が全部ということではないので。ただこのやり方を使うと当面は贈与税を払わなければなりませんから、相続税を一億円くらいは払わなければならないんですよね。この贈与税額が準備できていない人は使えないやり方にはなりますけど。
金井 そうすると、来年から新制度ということになりますが、広大地制度を適用して生前贈与以外にいい方法というのは中々なさそうですね・・・。
芳賀 中々ないでしょうね・・・。
金井 となると、残り数ヶ月で贈与する土地をいくらか選択して生前贈与するか、制度が変わることを受け入れて、別の方法を考えるかということですね。
芳賀 言い方が悪いかもしれませんが、この広大地制度の変化は、税理士さんにとっては、商売の大きなチャンスになるんじゃないでしょうかね(笑)ある程度の富裕層の方は、相続税の試算をされていると思いますが、その試算が全部やりなおしになってしまいますからね。今まで相続税が3億円だった試算が5億円になってしまうようなできごとですから。
金井 そうなると不動産オーナーとしては、試算・分析を早期にやることがまず一番大切な対策と言えますね。
芳賀 それから、広大地が500平米以下でも認められることがあると述べましたが、新制度では「判断基準を明確でフェア」になるぶん、500平米以下の土地はまず認められなくなります。
金井 現行通達があいまいな書き方になっているから、こうしたアンフェアなことになってましたが、今回の通達の書き方は明確で言い切ってますからね。土地オーナーにとっては、こういった、500平米という制度のボーダーライン付近にあるかどうかの現状を理解することも、より大切ですね。
相続を控えた不動産オーナーがこれからの時代に大切なこととは?
金井 このような感じで、広大地の制度も変わり、相続税の最高税率も上がりました。先祖代々の土地を次世代に引き継ぐことが、相続を控える土地オーナーの望みと捉えているのですけれども、昨今は逆風が吹いていると言えます。今後土地オーナーの資産承継で大切なことは何でしょうか?
芳賀 厳しい言い方ですが、そもそもここ40年間地主さん達にとってはいい時代だったと思わざるを得ないんですよね。
金井 地価が上がってましたからね・・・。
芳賀 人口減少の時代に移り、2022年の生産緑地問題も控えてますから、これから「完全に逆風にさらされる」のが地主さん達だと思います。だから私は5年前に、「このままだと、地主階層が30年後に没落する」というブログを書いたんですけどね。
金井 芳賀先生、さすがです。
芳賀 「このまま」「何もしなければ」没落するということですよ。だから地主さんは「何かしなければならない」と。やっぱりまずは「現状分析」、この土地の強み・弱みが何かということをちゃんと把握する。ただ、我が家の土地はどういうものかちゃんと考えて把握することができている地主さんは極めて少ないと思います。そして、相続税を試算する。跡継ぎが誰かということをきちんと考える。そして30年後を踏まえた土地活用を総合的に行う。だから間違っても遺言信託なんかやめた方がいい(笑)
金井 あれはちょっと何の救いにもなりませんからね(笑)
芳賀 そう思いますので、「これで全て解決する」といった解決策ではないですけれども、地主さんは「あらゆる情報を仕入れて、とにかく勉強する・自分で考えて実行する」ことが、肝要です。とても難しいことですが、「一家の経営者」とならなくてはならない。申し訳ないんですけれども、特に農家さん系の地主の方は「経営者」になれてない人が多いと、正直思います。
金井 これに関して僕は思うことがあってですね、やっぱり会社オーナーも土地オーナーも同様で、会社や不動産といった資産を守りたかったら、所有者は「経営者」にならなければならないんですね。もし「経営」ができないならば、資産を全て売却して、定期預金にするのが一番の幸せだと思います。
芳賀 実力の伴わない人は、経営をやっちゃいかんということなんですよ。
金井 経営の実力があって資産を増やしていく人は大丈夫なんですけれど、「経営」できないと財産がどんどん目減りしていくんです。だんだん痛々しくなっていく。そういった人の「救い」が銀行預金だと思ってます。銀行預金は、財産が「増えることがない」けど、「経営」できない人が会社や不動産を持つと、財産がもっとハイペースに減ってしまうのです。日本の金融機関は、色々問題があるところもありますが、体力は非常にすばらしいところだと思います。それが一番活きるのが銀行預金だと思ってますからね。僕の事務所はこれからも銀行預金万歳で行こうと思ってます(笑)
動画
対談者プロフィール
株式会社K’sプライベートコンサルティング 代表取締役
金井公認会計士・税理士事務所 代表
公認会計士/税理士
金井 義家 氏
1973年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒
1996年株式会社北海道拓殖銀行入社
1998年東京都庁入庁
2003年新日本有限責任監査法人入社。大手企業の監査経験を積む。
2009年税理士法人タクトコンサルティング入社。税理士として資産税に係る幅広い実務をこなす。
2014年独立。金井公認会計士・税理士事務所代表。資産税のプロフェッショナルとして活躍中。
公益社団法人全国野球振興会(日本プロ野球OBクラブ) 監事など役職多数。
「相続対策で消える富裕層、生き残る富裕層」(日本法令)他執筆多数。
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