前回の続きです。

父親が亡くなったのは2月20日冬の寒い季節でした。葬儀と初七日法要を同時に済ませると、間もなく春めいてきて梅の季節になります。悲しみが癒えた頃に四十九日を迎え、死者があの世に無事につくことを祈り、納骨を終えて1週間後に家族間で相続の話し合いが持たれました。季節は移ろい桜はとうに散り終えています。

遺言書を探してみましたが見当たりません。さらに公正証書遺言があるかどうかを公証人役場で確認しましたが、該当するものはありませんでした。相続税の申告期限は亡くなった翌日から起算して10カ月以内です。そうするとその年の12月20日になります。父親の大学時代からの友人である大山弁護士が、この家族会議の議長役を務めることになりました。出席者は下記の通りです。

母親(妻)美紀、長女 奈美(その夫は相続人ではないが建物所有者として臨席)、次女 百合

大山弁護士が「亡きお父様の相続税の申告のためには、本来は遺言書があればそれに則って分割を進めるのですが、今回はありませんのでまずは皆様方で遺産分割の話し合いを進めてもらいます」と切り出しました。

「ご存知のように民法上の相続権は配偶者1/2、子は1/2ですが、お二人いるのでそれぞれが1/4になります。しかし、分割協議において全員の同意があればこの規定に縛られることはなく自由に分割することが可能です。例えばお母様に全額相続させることもできます。ご意見はありますか」と弁護士。「私は民法通り分けて頂きたいわ、先生、ところで一体パパの財産はいくらあるんですか?百合はどう?」と奈美。

一般的に、子どもが親の財産を把握している家庭はほとんどないのが実情でしょう。当然ですが、妻の美紀はおおよそは知っていても、それとて株式記録や他の財産の詳細まではわかりません。まして隠し財産や隠し子があればまた話は変わってきます。次女の百合は「私はお姉ちゃんとは違うわよ。ママの今後の生活のこともあるし、ママに多めに渡すべきと思うわ。どうせママの財産もいつかは私たちの物になるんだし」

「何よ、いい子ぶっちゃって。欲しいくせに」と奈美。「まあまあ」と弁護士。当然ながら弁護士は、この会議前に美紀と綿密な打ち合わせをしており、財産高は概ねつかんでいました。

「では、財産目録を開示します」娘たちはウっと息を吞み、控えている奈美の夫も緊張した面持ちです。

弁護士は「土地及び建物の評価額は相続税評価額と時価評価額があります」と前置きしたうえで、財産目録を読み上げました。

・土地の相続税評価額 6400万円、時価評価額8000万円

・建物の相続税評価額1/2の持ち分として(固定資産税評価額)1500万円、時価評価額2000万円

時価は不動産鑑定事務所の鑑定評価額を参考に、相続税評価額は税理士事務所で試算したものです。

・評価額5000万円の上場株式と5000万円ほどの現預金があり、整理すると時価評価額2億円、相続税評価額1億7900万円となりました。ただし、自宅土地については妻が相続すれば小規模宅地の評価減の特例を使えるので、1280万円に減少することになります。今回は、不動産鑑定事務所の鑑定書により土地と建物の時価が把握されているので、この評価を前提に分割することに合意しました。

仮に民法上の法定相続分で分割すると、下記の通りとなります。

母親(美紀)1億円、長女(奈美)5000万円、次女(百合)5000万円

しかし、ここで大きな問題が生じることになります。母親は1億円の相続分で自宅は確保できるものの、老後の資金である現預金を受け取ることが出来ないのです。もちろんこのような場合に備えて作られた配偶者居住権を妻が選択すれば(概ね評価額が3000万円になると仮定)、7000万円の預金と株式を得ることが可能です。

「お姉ちゃん夫婦は土地の一部を無料で使っているのだから、今後はお母さんにきちんと地代を払うべきよ」と妹。姉も、母親に現預金を確保すべく自分たちは2500万円ずつで良く、家の分の1億円と現預金5000万円を母親に相続させるべきと妥協しました。これで丸く収まったかのように見えましたが、さらに大きな問題が発生したのであります。

またまた次号に続きます!

 

 

★YouTubeはじめました!チャンネル登録お願いします。

不動産鑑定士《芳賀則人の言いたい放題》 (別リンクに飛びます。)