前回の続きです。
さて、ここであなたにこのようなこと(二世帯住宅建て替え問題)が起こったらどうすべきか考えることになります。親は娘の情にほだされて「いいよ」と承諾するのでしょうか。それとも「ちょっと待って」と答えを「留保」するのでしょうか。たぶん即刻、断る親はいないはずです。
一方、子供の立場としても安易にお金が安く上がるからといって同居を望むというのは如何なものかであります。
実はこの二世帯住宅こそが「相続問題」の隠れた大きなテーマの一つです。
高齢になると、健康の問題や家業がある人など、どうしても気弱になるのも確かであり、さらには後継者の問題も重なります。さらに、大手住宅メーカーの幸せを絵にかいたような家族が演じる仰々しいコマーシャルや営業活動に心が動かされます。それと「小規模宅地の評価減」が建物の形態により相続税節税対策にと謳われます。とにかくあちこちからの悩ましいお誘いが襲って来ます。
つまり、これを契機に老夫婦の今後の人生の過ごし方と、「円満相続」を実現するための決断を迫られるといっても過言ではありません。
しからば、何を基準にして二世帯住宅の判断をすべきなのか。父母娘家族が同居するのかあるいはやめるのか、ここをしっかりとした方針で内外ともに明確にするべきです。問題が起きた事例を元に解説します。
結局、この一家は娘の希望通りに二世帯住宅を建てることにしました。建物の所有形態は下記の通りです。
1、構造:木造2階建て延べ面積約200㎡(1階が両親の住居・2階が外階段での娘夫婦の住居)。
2、建築費:合計約6,000万円。
3、資金計画:父親と娘婿が3,000万円それぞれ出し合っての共有名義、婿の建築費分3,000万円を住宅ローンで借り入れする。ただし、父親は土地と建物については担保提供する。
4、娘夫婦の父親に対する地代は無償、いわゆる使用貸借。
5,固定資産税は娘夫婦が半分負担する。
ということで、約10ヶ月後に新居が完成して、楽しい二世帯住宅生活が始まりました。
(以下追加しました)
しかし、人生というものは何故か思い通りに行かないことに遭遇します。いや、「生きがいの創造」の著者の飯田史彦氏によると、思い通りに行かないことに価値があるともいっていますが、そこまでの達観は普通の人々には思い至らないかもしれません。またまた余計な話をしました。では、この一家を襲った悲劇とは。これが相続の恐ろしさであります。この出来事は現実に起きたことをデフォルメして何通りかのパターンに分けることになります。新築後3年間は本人たちの想定通り「誰もが羨む2世代同居いや2世帯同屋根生活」を送りました。
ところが・・・・
【パターンその1】
ある年の暮れも押し迫った頃に父親が脳梗塞を起こし、あっという間に亡くなってしまったのです。これといった趣味もなく仕事人間だった男の哀れな姿は、自分に置き換えてみるとまさにその通りだなと感じ入る始末です。退職から約3年間はすることもあまりなく、悠々自適が楽しいと思うのはせいぜい1年間ぐらいです。自宅近くにある公園で午前と午後小一時間つぶすのが日課です。ゴルフからも縁遠くなりました。プレッシャーからは解放されたものの、酒量も増え、運動不足もあり、現役時代から比べて10㎏も肥ってしまいました。それも原因したのかもしれません。現役時代のような定期健診もしませんでした。まさに突然死です。このような時には相続の専門家はまず遺言書はあるのかないのかが気になります。案の定、遺言書はありませんでした。
日本の相続問題の一つは、自分が死ぬことを普段意識していないことです。もちろん、普段から死を気にしていたら命がいくつあっても足りませんが、そういうことではなく、死んだ後の始末をちゃんとつけているかということです。特に団塊世代以上の年齢の人々は、男性中心の社会に生きてきただけあって、奥さんや子供の行く末にそれほど関心がありません。「俺が死んだら残った者たちが適当に上手くやってくれるだろう」あるいは「ウチに限って相続争いなどはない」という何の根拠もない思い込みの人が大半です。さすがに、ここ10年くらい「終活」「遺言書を書く」「認知症」などという言葉が一般紙にも頻繁に取り上げられ、世の中に蔓延?するに従って遺言書を書くことがかなりのブームになりつつあるのも確かです。しかし、一般サラリーマンだった男たちが遺言書を書くなどは、まだまだ少ないのが実情です。今回のケースもこれに当たりました。遺言書がありません。ということは、母親と長女と次女での遺産分割協議書を作成して財産の取り分を決めないと、父親分の1/2の建物と土地の相続登記が出来ないのです。当然ですが、建物所有者である婿には相続権はありません。長女とその子供たちが一緒に住んでいることが、この相続は難しくなると思うことが出発点です。
またまた次号に続きます!
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