土地は何のために存在するか、不動産鑑定から見た その価値の源泉は何か
人はなぜ、何千万円(例えば東京都近郊では普通の金額)ものお金を投じて土地を買うのでしょうか。
昭和50年以降の土地の急騰は団塊の世代(サラリーマンという安定的な給料取り)がほぼほぼ豊かな生活になってマイホームを買う年代になったからです。昭和30~40年代後半までは、ほとんどの人々は比較的貧しい生活でした(私もそうでした)。とはいえ、食うや食わずの人もそんなにいなかったのです。ひもじい思いもなかったのです。
それが地元の中学・高校を卒業し、花の東京に出て来てから高度経済成長期に遭遇した年代は結婚して家庭を持ち、給料も上がり気が付くとみんながマイホームを持ち出し、自分も「家」が欲しくなります。その良い欲望がマイホーム所有に向かったことは間違いないことです。ただし、その行き過ぎた結果が昭和60年頃から始まった、いわゆる不動産バブルに繋がるわけですが、これはサラリーマン世帯にはあまり関係のない事象でした。
現在のマイホーム現象は団塊世代の子供たち、つまり団塊ジュニア(35~45才)がターゲットになりました。特にこの10年間はまさに歴史上に例をみない低金利です。今では年利0.5%程度の金利で住宅ローンが借りられます。これで不動産の価格が維持されていることは明白です。なので金利が心配です。これはいつまで続くのでしょうか?と思っていたら、ある著名な公認会計士・税理士のH先生がこう見解を述べました。「芳賀さん、今の金利は若い人が年を取るまで続くと思うよ」と。
つまり、あと数十年は続くとの意見です。全く考えてもいないことだったので、かなりのショックを受けました。まさに私には想定外の考えだったからです。
もちろん、これが当たるかどうかは30年先でないと結論は出ません。しかし、今の世界や日本政府の債務残高、医療費の問題、年金問題等々を考えると国債金利が仮に3%になったら、不動産価格は大暴落、利払い費用で税収は吹っ飛びます。まさに国民全員地獄に落ちることになります。だから金利は上げるに上げられない・・・はずです。
とはいえ、土地価格は需要と供給の関係で決まります。少子化(昨年度出生数は97万人)と多死化(同死亡数、130万人)はすでに起こっています。2022年の生産緑地解除による土地供給過剰問題など、土地価格を取り巻く環境は必ずしも強気になれないことも確かです。金利の影響はともかく、土地価格の維持はかなり難しい時代でもあります。
ようやく今回の本題です。冒頭の問いに答えます。
人は土地は要らない、建物が欲しいのです。いい家が欲しいのです。もちろん建物だけ作ろうと思っても出来ません。土地が必要です。しかし現状の不動産業界は土地だけを売ってくれません。建物で利益を出すからです。それで仕方なく建売住宅を買います。分譲マンションを買います。本来は自分好みの設計や仕様や材質で家を作りたいのです(面倒くさいから建売で良いと思う人もたくさんいますが)。
人は建築できる土地が必要なのです。ということは建物が建てられない土地の価値はあるでしょうか。間口が2m未満の建築確認不可地、道路に面していない土地、傾斜度が30度を超えるような急傾斜地、住宅が建てられない市街化調整区域の土地等々、建築が容易に出来ない土地は世の中にたくさん存在します。
私はこのような欠陥土地に(所有者にはごめんなさい)価値を見出すことはかなり厳しいと思っています。土地の価値は建物が法的にも物理的にも建てられることを前提とすべきだからです。大変恐縮ですが、今回の台風で地盤が崩れて杭がむき出しになった近鉄沿線に造成された宅地を見ると、不動産業者の罪は重いと言わざるを得ません。あれは犯罪行為です。
しかし、そのような土地に値段をつけるのは至難の技です。不動産鑑定士が十人いてもストライクゾーンの真ん中に投げることはかなり難しいことです。でも何らかの球を投げなければなりません。エイッ!と。
しかし、税務当局も固定資産税評価もこのような土地に対応する確固とした基準を持っていません。であれば、不動産鑑定士も自分の意見や考え方を、信念を持って出すしかありません。