今回は、東京アプレイザルのHOPE、若き不動産鑑定士試験合格者の論文がとても良く書けているので、ご紹介させていただきます。
【市街化調整区域における地積規模の大きな宅地の適用の問題点】
1.はじめに
地積規模の大きな宅地は、旧広大地制度の趣旨(開発による潰れ地の減価)を鑑みつつ、適用要件の明確化や、各土地の個別性に応じた減価率を反映させるために制定されたものである。土地等の開発許可は基本的には市街化区域内で行うことを原則としているが、市街化調整区域内でも、例外的に、都市計画法34条各号に基づき開発が可能となる場合がある。なお市街化調整区域とは、「都市計画区域について、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため必要があるときに定める区域区分のうち、市街化を抑制すべき区域として定める区域」である。
旧広大地では新設道路の敷地を伴う戸建て分譲の開発ができれば適用可能であったが、地積規模の大きな宅地制度では、34条10号、11号に基づく開発が可能な場合のみ適用可能としており、その妥当性を考察していく。
2.34条10号とは
都市計画法34条10号とは、「地区計画又は集落地区計画の区域(地区整備計画又は集落地区整備計画が定められている区域に限る。)内において、当該地区計画又は集落地区計画に定められた内容に適合する建築物又は第一種特定工作物の建築又は建設の用に供する目的で行う開発行為」である。ここでいう地区計画又は集落地区計画とは、その地区での詳細な街づくりであり、地区整備計画又は集落地区整備計画とは、それらの具体的な内容(建築物の用途、容積率等)である。
市街化調整区域は原則として開発は認められない市街化を抑制すべき区域であり、これから地区を整備するようなまちづくりの方針である地区計画が定められること自体稀であり、さらに住居系の用途に限定する地区計画となるとほぼ皆無である。例外的に定められる場合として、特定保留区域(市街化予備区域)などがあるが、地域が限られてしまい、34条10号での開発は現実的ではない。地積規模の趣旨である「戸建住宅用地として分割分譲する場合に発生する減価を反映させる」との関係性があるのか疑義が生じる。
横浜市内では栄区上郷町地区のみで住居系に限定した地区計画があるようで、川崎市内では黒川地区でそのような地区計画が定められているようだが、地区が非常に限られてしまうため、横浜市自体34条10号をもとに開発を行ったという前例がないとのことで、県内の他自治体でもほぼ同様だと考察される。
3.34条11号(条例指定区域)とは
都市計画法34条11号とは、「市街化区域に隣接または近接し、市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められる地域で、おおむね50以上の建築物が連担している地域(いわゆる50戸連たん地域)のうち、条例で指定する区域内での開発行為で、予定建築物の用途が環境の保全上支障ないもの」である。
11号を適用要件とすることは、条例が指定されているか、指定されていないかによって適否が明確になるという利点があるが、神奈川県内では、相模原市及び小田原市が11号による開発を受け入れているが、大半の自治体は条例を定めていないのが現状である。また平成23年に川越市が11号を廃止し、相模原市についても令和5年1月1日から11号を廃止することとなっている。これは、市街化区域と市街化調整区域が入り混じるような地域(例:鎌倉市)においては、11号を認めてしまうと、山林部にも戸建住宅などを建てられるようなことになってしまい、無秩序な市街化を促進する恐れがあるため、11号自体廃止する自治体もある。
4.34条12号・14号とは
都市計画法34条12号とは「周辺の市街化促進のおそれがなく、市街化区域内では困難または著しく不適当な開発行為として、都道府県の条例で、目的または予定建築物の用途を限り定めたもの」である。
都市計画法34条14号とは「各号のほか、市街化促進のおそれがなく、市街化区域内では困難または著しく不適当な開発行為で、開発審査会の議を経たもの」である。いわゆる旧既存宅地などは、この号での開発に含まれることが多い。
尚、実務上の運用は14号に基づき、各自治体の開発審査会の議を経て、開発許可の検討をすることが主流になりつつあり、横浜市や川崎市では12号は定めず、14号で大半の許可申請を検討している。なお12号というのは、14号での開発許可を行う中で、典型的なパターン(既存宅地など)を条例化し、審査基準を定め運用するもので、開発許可の所管が神奈川県の場合、12号は条例化されている。
5.東京都内の34条開発の動向(町田・八王子市・その他の多摩地域)
東京都内においては、区部は調整区域がほぼないため除外し、町田市・八王子市・その他の多摩地域について調査したところ、町田市は「町田市市街化調整区域における立地基準」によると、10号及び11号での開発は行っていない。八王子市については、10号については美山工業団地、杏林大学で地区整備計画が定められているが工業系用途及び大学用途での制限であるため地積規模の要件である宅地分譲は不可能であり、11号については、条例は制定されているものの、区域指定の実績はない。多摩地域においては、所管が都の建設事務所になるため都の立地基準に準拠することとなるため、11号による開発は条例がないため認められない。10号については各自治体の地区整備計画の策定の有無によるため不明であるが、前記の通り調整区域で住居系の地区整備計画を定めること自体例外であり、相当困難であることが思料される。
6.地積規模の大きな宅地制度の限界及び鑑定評価の有用性
以上の通り調査を重ねるうちに都市計画法34条10号、11号に基づいた開発はほとんど行われていないことが分かったと同時に、なぜ地積規模の大きな宅地がこれらに限定したのか合理的な理由が見当たらず、疑義が深まることになった。
14号は個別具体的かつ、開発審査会の議を経るため、開発の可否が開発審査会に委ねられ、判断基準が曖昧になる可能性があり、これを危惧し地積規模の大きな宅地の適用要件にしなかったことが推察される。しかしながら現実は14号での開発が主流であり、その典型(既存宅地など)が12号によって条例化されている以上、12号による開発が許される土地については、地積規模の大きな宅地の趣旨に鑑みて、適用されるべきではないだろうか。12号に関しては条例が指定されているか否かにより適否が明確という意味で11号同様利点があり、かつ実務の中で生まれたものである以上、10号のように特定の地域を指定するといったものでもない。
現状、市街化調整区域内での12号・14号開発が出来る土地の時価を算出するためには、客観的な交換価値を把握できる鑑定評価が有効である。弊社で過去に評価を行った神奈川県内の調整区域内の大規模地について、通達での評価額が約1億円程度であった土地が、鑑定評価において、宅地見込地として開発を想定した場合の時価は5千万程度であると算出された。
―考察要旨―
① 地積規模の大きな宅地の「戸建住宅用地として分割分譲する場合に発生する減価を反映させる」という趣旨を鑑みると、都市計画法34条10号、11号のみに限定させることは矛盾する。
② 地区区分や都市計画法の区域区分等を基にすることにより適用要件の明確化を図った可能性があるが、10号に関してはほぼそのような地域は無く、かつ個別具体的になるため開発が認められるか判然とせず、11号については廃止する自治体も増えており、適用が難しい法令を適用要件としている可能性がある。
③ 現状34条10号、11号の運用は、神奈川県内における自治体では皆無であり、実務的には12号、14号での開発が主流なため、財産評価基本通達の適用要件は形骸化していると言わざるを得ない。
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