国税庁が規定する財産評価基本通達(以下通達と呼びます)において、いわゆる路線価評価方式(以下路線価と呼びます)で、収益価格の考え方はどのようになっているのだろうか、疑問を感じる向きも多いのではないでしょうか。固定資産税評価基準においても同様の疑問が湧き起こるのです。

最も分かりやすい例で言うならば、貸家建付け地+建物(賃貸アパート等)です。いわゆる収益物件です。特にこの数年間、相続税対策と銘打って、建ててはいけないような地域に建ててしまった、複数の某ハウスメーカーの収益物件が、あふれんばかりに存在すると批判を浴びているのはご承知の通りです。(ダイヤモンド誌6月24日号『不動産投資の甘い罠』)を参考にして下さい)

今回は供給過多の状態である問題を取り上げるのではありません。この評価方法についてです。

通達では、土地(貸家建付け地)と建物は別々に評価します。

事例研究

仮に対象不動産の条件は以下の通りとします。

○○県××市

最  寄  駅 : 15分  (東京都心まで90分)

第1種住居地域(60/200)

前面道路 : 5m

路線価  : 80,000円/㎡

土地面積 : 900㎡(間口25m、奥行き36mの整形地)

建物面積 : 900㎡(RC造3F建て、築27年)

広大地適用は1,000㎡以上の地域(広大地適用不可として)

借地権割合が50%の普通住宅地区

空室15室中3室  (空室率 20%)

家賃収入 : 7万円 × 15戸= 1,050,000円(満室想定)

土地価格 : 80,000円 × 900㎡ × 0.96 ×(1-0.15)= 58,750,000円

建物は固定資産税評価額 × 0.7 = 35,000,000円

土地 + 建物 = 93,750,000円(路線価方式の価格)

問題はここからです。この評価が市場で通用するか、売買が可能かです。売れそうもない価格は時価とは言いません。9,375万円で売れるかどうか考えて見ましょう。

ここで登場するのが収益価格です。この物件を誰が買うかです。ハッキリ言って家賃収入といずれは売るつもりの値段を考える投資家しかいません。それもいかに利益を確保できるかです。しかし、地主さんたちは売ることを考えていません。つまり投資の最終出口である売却という概念がありません。だから先ほど触れたように供給過剰な状態にまで陥るのです。 とはいえ、この評価です。

家賃収入(空室率、家賃下落)と利回りをどのように設定するかでほぼ決まりです。それと今後の維持修繕費(外壁、壁、周辺外構、設備等の更新)です。

当然ですが、築30年近くなると全てが古臭くなります。思わぬ経費が掛かります。投資家としては5~7年ぐらいが勝負です。既に売ることを考えて買います。

ここに収益不動産の評価でDCF法(総家賃収入の現在価値と将来の売却価格の現在価値を合算する)というのが登場するのですが、結構複雑になるので今回は直接還元法で考えます(数字的にはほぼ近似します)。

年間家賃収入: 12,600,000円

空 室 率 : 20%

経 費 率 : 30%として(修繕費等を考慮)

還元利回り : 10%(家賃下落・キャピタルロスを考慮)

※ 利回りの決め方が難しいのも事実。但し投資家調査等によりインデックス化が 進んでいる

※ 12,600,000円 ×(1- 0.2)×(1- 0.3)÷  0.1 = 70,560,000円

この低金利のご時世に利回り10%なんてと思うかもしれませんが、地方都市の人口動態を見れば納得してもらうしかありません。それと周辺にまだ建つであろう新築のライバルです。古くて機能が劣ればそちらに持って行かれます。ババ抜きが常態化しています。

結論は、路線価評価では売れない物件が山ほど存在します。

 

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