前回の長女の夫のセリフから振り返ります。

「申し訳ないが俺の所有権部分をお母さんに買い取ってもらいたい。ついては価格は残債と同程度の2,650万円にしてもらいたい。それで俺の抵当権は抹消されるので君たちも安心だろう。受け取ったお金は離婚条件の財産分与として君に1,650万円渡すよ。家にはタダで住めるし十分だろう。そして俺は1,000万円もらう。俺の預金はせいぜい100万円だけど引越代などの費用に充てたいからこれはもらうよ」

夫の不倫は奈美にとっては晴天の霹靂でした。しかし、覆水盆に返らずの通り夫婦の仲が元に戻ることはほとんどない状態になっていました。さらに追い打ちをかけたのが夫の建物共有部分の買取り請求です。請求金額はローン残高の2,650万円です。これはこれとしてそれほど根拠のない数字ではないのですが、果たしてこれが適正な時価になるかということです。かなり細かい話になり分かりにくいので再度、相続時点での建物の鑑定評価額をおさらいしてみます。

以下は【その二世帯住宅計画にちょっと待った その4】での記述です。

・土地及び建物の評価額は相続税評価額と時価評価額があります。

・土地の相続税評価額 6,400万円 時価評価額8,000万円

・建物の相続税評価額2分の1の持ち分として(固定資産税評価額)1,500万円

・時価評価額2,000万円

(尚、時価は不動産鑑定事務所の鑑定評価額を参考に、相続税評価額は税理士事務所で試算しています)と弁護士

この評価額は亡父親の相続財産の時価評価を鑑定したものです。3年前の新築時は全体で6,000万円の建築代金でした。これを鑑定評価では積算価格(コストアプローチ)といいます。仮に、離婚時の現在これを新たに建築する場合は、ほぼ同額の建築費(再調達原価といいます)になることは問題ありません。しかし、この物件は二世帯住宅という特殊な形態の建物です。時価というのは一般性や普遍性を重視します。よって二世帯住宅の新築建売が存在しないように一般性はありません。ましてや中古の二世帯住宅は売買の時には大きな減価要因となります。それと、建物評価の難しさは掛かった費用そのものが評価額に反映されることはほとんどないのです。つまり、市場で通用するかどうかの判定が必要になります(マーケットアプローチといいます)。よくありがちなのは、あまりにも豪勢な建物や趣味趣向に走る過ぎる建物は売るときには、それがマイナス要因になるのです。

一方、共有物件である本建物をもう一方の共有者が買い取る条件であれば共有減価的なものは発生しません(ただし、一般的には共有持ち分を第三者に売るときはかなりの減価になることがあります)。いずれにしても、二世帯住宅の市場性は極めて劣ると考えるべきです。いい方がきつくて恐縮ですが、好き好んで中古の二世帯住宅を買う人がどれぐらいいるのかを考えれば分かることです。

さて、鑑定評価上はこれらの減価要因を考えて2分の1の共有持ち分をローン残高の2,650万円ではなく、父親の相続財産の評価同様2,000万円と評価したのです。つまり、亡き父親の所有権部分と合わせても4,000万円程度になります。

これを整理すると、

・3年前の建物建築費 6,000万円(ただし二世帯住宅の全体価格)

・3年後の鑑定評価額 4,000万円(婿は2分の1なので2,000万円

・父親死亡時の婿の住宅ローン残高2,650万円

そうすると、婿の主張する2,650万円と時価評価2,000万円との差額の650万円の差が生じることになります。

実はもう一つ隠れた問題があるのです。既述の通り建物は亡父親と婿の共有状態です。相続における分割協議時の原理・原則として、不動産はできる限り兄弟間の共有は避けるべきがあります。ただし、不慣れな専門家にあたると、安易に不動産を2分の1とか3分の1とかに分けてしまうことがままあります。このおかげで何と不幸に陥れられた多くの人々がいるかとの思いです。無知は罪だとつくづく思います。

さて本題です。婿から買取請求が来て折り合わない場合は「共有物分割請求」の訴えが母親に対して起こされる可能性があります。これを知った母親の美紀はどのように考えるかです。

またまた次号に続きます!

 

 

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