前回の続きです。

さて困りました。売り希望価格は2,650万円で鑑定評価額は2,000万円です。この違いをどのように解釈するかです。不動産の価格体系や相場観などのない美紀にとっては厄介な問題です。とはいえ、自身に降りかかった問題は後から考えると案外何とかなるのが人生です。この年になれば、そうやって長いこと生活を送ってきた女性がほとんどでしょう。これも同様に考えれば高が不動産です。悩みごとの90%はほぼ問題ないという格言通り、物事は成るようにしかなりません。

さて、共有物分割調停になった場合は価格賠償の形をとることが多いのですが、競売申し立てという最悪の事態は避けなければなりません。競売になり、第三者が競落して共有物の相手方になることもあり得るからです。どちらにしろ、長女家族が住んでいる今の状態を維持させるためには、価格をどこかで折り合うのが最も安全でかつ効率的です。さすがに婿も実の娘を窮地に追い込むことはしないはずです。こうなった以上は法律問題でもあり、お互いに弁護士を立てて交渉することになりました。ここで相手側弁護士から驚くような提案が持ちかけられました。

その内容は下記の通りです。

  1. 建物は建築後3年経過しておりその間は婿も普通に生活していたこと
  2. 父親の土地上に建物があるが地代等は払わず無償(使用貸借)にて使っていたこと
  3. 二世帯住宅といえども新築の建物になり、半分の建築費は婿が立て替えており、父親家族にも一定の恩恵があったこと
  4. これらのことを総合的に判断すると婿には土地上の使用借権が認められること

つまり、単に建物代だけの価格ではなく更に使用借権(立ち退き料的なもの)があるので、それも請求するとのことです。これを概ね650万円認めてくれないかということです。なるほど・・・と唸ってしまいます(筆者)。

確かに不動産鑑定上も使用借権を認めざるを得ない考え方があります。ざっくり言って恐縮ですが、更地価格の10%とか借地権割合の20%とか様々な説があります。大体において使用貸借は、ほとんど親族間(親子間・兄弟姉妹・叔父・叔母あるいは遠い親戚)の話です。他人の使用貸借など、私は経験したことも聞いたこともありません。よって、問題が起きると親戚関係が崩壊することがままあります。安易な貸し借りはやめた方が良いでしょう。

仮に更地価格の10%として本件に当てはめると、土地価格は1億円なので下記の計算になります。

1億円 × 建物占有率 50% × 10% = 500万円

ただし、婿が占有した年数は3年と短いので割引して使用借権を5%とすると、

1億円 × 建物占有率 50% ×  5% = 250万円

となります。

この価格が決定的なことといえないのが評価です。もし、これが裁判になれば、足して2で割るなどということは普通に行われています。そうすると350万円ということになります(あくまでも仮定の話です)。

一般的な価値観から見ればなんと理不尽なことと思われますが、これは公共用地の取得に伴う損失補償基準でも使用借権を認めています。この割合は賃借権(借地権)の3分の1程度となっています。ただし、賃借権は地域により差異があるので必ずしも3分の1が通用するとは限りません。なお、相続税法上は使用借権を更地から控除することは認められていません。(審判所裁決例 出典:平成20年5月21日非公開裁決TAINSコードより)

これらのことを考慮して、母親の美紀は2,000万円+350万円で婿より建物を買い取る決断をしたのです。

 

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