戸建て住宅やマンションは当然のごとく、その購入目的は自分が住まうマイホームとしてです。これに異論を差しはさむ人はいないでしょう。ただし、買うのが良いのか(所有派)借りているのが(賃貸派)良いのかは、それぞれの言い分や哲学が相まって永遠の議論だと思います。しかし、昨今は高齢者には積極的に貸してくれないという大家・不動産業界の冷たさもあり(老人は孤独死や不払いなどの経営リスクがあるからと言って)、所有派の方がよいのではという意見がやや優勢な気もします。

私は18年前に中古マンション(欠陥でほとほと嫌気がさした)を売り払い清々したところに何故か女房が見つけてきた、とある分譲タワーマンションの一部が賃貸に出ており、早速そこに鞍替えした経緯があります。つまり67歳の今でも賃貸派であります。というか、悲しいかな買い換える余裕がなかったということでもあります。

さて本編の主題に戻ります。では、歴史的な低金利を反映して6~7年ほど前から不動産投資ブームが盛り上がり、2年前にはスルガ銀行事件が大きく取り上げられました。これはシェアハウスに投資した投資家が半ば騙されてローンを組まされたという内容でしたが、今年になり被害を受けた投資家がスルガにその物件を代物弁済すれば、ローンをチャラにするという事になり、事実上スルガが抵当権を放棄することになりました(ただし、一部投資家はまだ決着していない)。これらのように一般サラリーマンが不動産投資に血道を上げる背景は何なのでしょうか。

実はこれは今に始まったことではなく平成の初めにも「マルコー」というワンルーム販売会社が世間を騒がせたことがあります。この時はバブルに乗った投資家達が利回りという概念もなく、単にキャピタルゲイン狙いで買ったのが実態です。要するに単に値上がり期待です。財テクなどという言葉が世の中に蔓延していました。何を隠そう私もその一人で、平成2年にワンルームマンション(専有面積20㎡で2,800万円、手付金を140万円払う)を買ったところ、建築途上で分譲会社が破産してしまい、結局、手付金は戻らず15万円だけが配当金として戻ったという、世間には言えない経験(言ってしまいましたが)があります。つまり125万円の実損という結果です。しかし、その後のバブル崩壊を考えると125万円の損で良かったと慰めています。

とはいえ、この投資を誘引する社会的な不安要因があるのも事実です。よく言われているのが「将来の個人年金代わりにしましょう。厚生年金に頼るのは心許ない。ましてフリーランスにとっては国民年金しかないので老後の生活は不動産収入で」となるわけです。

しかし、これらの投資には、かなり高度な投資スキル(不動産法務と評価リテラシー・金融リテラシー・税務リテラシー・建築リテラシー)が必要です。1回や2回の不動産セミナーに参加したぐらいでは話になりません。極論すれば一年間ぐらいの基礎的な勉強が必要です。しかし、被害にあった人々がここまで研究したかどうかはかなり怪しいものです。単にもうけ話に飛びついたのでは、とさえ思います。一連の事件で歴史は何度でも繰り返すということを目にもって経験しました。

では、収益不動産に投資するときには何を考えるべきでしょうか。モデルケースで説明します。

売値○○○万円の投資物件があるとします。この物件の価格を査定してください。

・家賃収入月額30万円(1DKの部屋が6室×5万円)年間360万円

・土地面積150㎡ ・建物面積150㎡(木造2階建て・築10年) ・近隣の地価公示価格200,000円/㎡

・最寄り駅から600m(徒歩7分)

※留意すること

①入居者の属性(勤務先や年齢、家賃の遅延の有無など)

②建物の修繕履歴、外見の状況、将来の修理費

③管理会社の対応

④更地化した時の評価額のチェック(道路付けや地形の確認)

⑤周辺家賃との比較、空室率

⑥固定資産税・都市計画税・税額チェック

⑦経費控除後の利回りの査定(各種サイトや業界紙の利回りを参考にする)

⑧自己資金の割合を最低20%程度にする(借入れは80%を超えないように)

⑨中長期(7~10年程度)的な投資期間を設定する。可能であれば10年を目途に売却する。余裕があれば物件を入れ替える。

⑩新宿駅・池袋駅・渋谷駅等のターミナル駅や都心部への交通アクセスの利便性等

※これらの項目で最も重要なものは⑦の還元利回りです。

コロナ禍以降の投資方針としては、これからはインカムでコツコツ型が堅いやり方ではないかと思います。土地価格は下がる可能性を考えるべきです。しかし、家賃は土地価格と違い遅効性といってすぐには反応しません。とはいえ、地域によっては人口が減少している市区町村がありますので注意すべきです。特にこの5年間の人口動態を調査してください。この人口動態により当該市の人気・不人気が一目瞭然です。

しかし、本音を言うと投資用不動産に過大な期待を抱くのは如何なものかなと思っています。65歳で定年を迎えて自分年金を作るという趣旨を否定はしませんが、そんな甘いものではないと思っています。個人的な意見で恐縮ですが、本業以外の副業や他の稼ぎ口を作る方が面白い人生を歩めるのではないかと思います。