「現状の30%評価に固執する科学的根拠はない」

これは平成8年6月の国税不服審判所による裁決書です。

図254

当時の通達は私道評価割合が何と60%の時代でした。道路(ここでは建築基準法の道路が前提です)の評価が「借地権」割合と同じとは・・・誰も疑問に感じなかったのでしょうか。

私が鑑定を引き受けたのは平成4年11月でした。その頃は財産評価基本通達の内容をほとんど知りません。私道評価が60%であることを知らなかったのです。長いこと売り中古住宅の査定業務をやっていた経験上、あり得ないことです。当然のごとく私道付き宅地の物件の評価をやっていましたから。また、当時は国土利用計画法の監視区域制度によって、東京都などにおける100㎡以上の土地売買については全て行政庁に届け出る制度がありました。市・区役所のお墨付きである、不勧告書というのですが、これがなければ銀行融資が受けられないなどの制約があり、基本的には100㎡以上の全ての土地売買の価格がチェックされていた時代でした。当然、私道の評価についてもチェックされていました。

実は、私は東京都のある市役所の国土法審査委員なるものを拝命していました。職務柄、土地売買における届け出価格を全て把握する立場にありました。その市は私道の評価割合を有効宅地に対して25%を上限とするという内規がありました。この数値は各市役所、区役所で扱いが違うという矛盾もありましたが、私の記憶では東京都では概ね30%を上限の基準としていたと思います。これは聞いた話で定かではないのですが、横浜市は5%が上限だという情報もありました。ただし、民法上は私道を何%で取引するかは個人間の自由です。例えば、売主、買主が合意の上、売買契約では30%で売りたいという届け出があったとします。しかし私が関与した市は25%が上限でしたので、25%まで下げるように勧告するのです。勧告に従わない場合の強制力はなかったはずですが、国土法を守らないと新聞紙上にて発表されるという罰則のようなものがありました。そうすると宅地建物取引業者は信用上の問題になりますので、ほぼ全ての業者は国土法を遵守していました。私の知る限りですが。

一方、私道なんかに価値は無いと思う一般人も業者もいます。それらの売買契約書には私道評価は5%とか10%と記入されています。それは問題なく不勧告書が発行されます。もちろんゼロ%の取引も多く見られました。平均の評価割合が約10%です。市場において、もし取引するのならば10%程度がいいところであるという証明になります。尚、私道だけの総額ではせいぜい8万円程度(私道事例73ヵ所より)であることが分かります。つまり、これらのことが分かっていましたので、当時の鑑定評価においても10%の割合で行ったわけです。

ここで気づいていただきたいのは、もし通達通りの評価割合60%で売買が成立しても国土利用計画法では通らないという冗談のような話になります。もしかすると国税庁の方々は国土法をご存じなかったからこの60%をそのままにしていたのではないかという疑念さえ起こります。尚、この監視区域制度は平成7年で終了しました。なので、今は安心して私道を30%以上で売れるものなら売って下さい。

更に突っ込みます。この60%になった経緯やいつからなのかが全く分かりませんが、平成3年以前の公示価格に対する路線価割合は概ね30~40%程度でした(現在は80%)。現在のようにはっきりとわかるような基準はなかったように思います。その頃、不動産鑑定士の殆どが路線価評価や通達について無知(私がそうです)でしたし興味もなかったのです。路線価は鑑定の実務には全くと言っていいほど使い物にならなかったからです。仮に標準的な宅地の路線価評価が公示価格の30%程度だとすると次の数式になります。

(昭和63年当時)

有効宅地部分   公示ベース 1億円(330,000円/㎡) 300㎡として

路線価評価   3,000万円(100,000円/㎡)

私道持ち分   30㎡として  

路線価評価   100,000円×0.6×30㎡=180万円     合計 3,180万円

時価1億円以上する土地が相続税の申告では3,180万円に下げてくれるのだから、私道評価なんて目じゃないね・・・という感じになります。全然気にしなくていいことになります。

ところが現在(平成28年)はこうなります。

有効宅地部分  公示ベース 1億円(330,000円/㎡) 

路線価評価   8,000万円(264,000円/㎡)

私道持ち分   30㎡  

路線価評価   264,000円×0.3×30㎡=237万円     合計 8,237万円

私道持ち分を237万円で市場が評価するかどうかが問題です。通り抜け不可の位置指定道路などに面している宅地に付随する私道持ち分はその有効宅地部分に含まれると考えられるため、実務的にはほぼゼロ評価とします。ただし、私道の持ち分がないと周辺の私道所有者から「あんたは私道の権利がないんだから通るな」と、村八分にされる恐れがあります。その時は私道を一部だけ買い取るということもあり得ます。それは話し合いによると思いますが、ザックリ言って総額で10~20万円程度ではないでしょうか(先の私道事例より)。だから必ずゼロになるものでもありません。

結論を言うと、行き止まりの位置指定道路の評価割合が10%で認められたということです。道路の奥にレストランがあることで、ある程度の不特定多数の人々が行き交うことにより減価の程度を強めるべきとの裁決です。3年ぐらい戦った成果が認められて嬉しい反面、未だに30%を守り続ける国税庁の頑迷さは全く理解しがたく、国民のことを本当に考える態度とは到底言えないとはっきり言います。事実上不特定多数の人が行きかう道路から税金を取ってどうするのだと。

このことに異議を申し立てない、あるいは口をつぐむ不動産鑑定士に明日はないとあえて言いたいのです。

※ 裁決書の全文が欲しい方は下記までご連絡ください。別途お送りいたします。