平成30年1月4日付け(東裁諸平29第70号)の裁決書によると、いわゆる底地買い取り業者が買い取った価格は客観的交換価値を大幅に下回るから、通達に基づいた評価を相続税評価とするべきとの判断です。よって業者による買取価格は適正な時価ではないとのことで更正請求を認めなかった事例です。
では、改めて時価とは何でしょうか。国税庁が規定する財産評価基本通達では常にこのように表現します。「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」と定めています。
なお、不動産鑑定評価基準では借地人が買う場合を限定価格と定義しています。
限定価格
- 限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。
- (1) 借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
- (2) 隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
- (3) 経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合
- (1) 借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
借地権者が底地を併合する揚合には、これにより借地権の存する土地が完全所有権に復帰することとなり、従来の借地契約上の制限がなくなることから当該土地に増分価値が生ずることとなる。買い手である借地権者にとっては、底地を正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値より高い価格で買っても経済合理性がある。したがって、第三者が介入する余地がなくなり、市場が相対的に限定されるため求める価格は限定価格となる。
また、通達では、底地はその自用地の価額から借地権の価額を控除した金額によって評価するとなっています。
本件土地の概要と裁決に至った経緯は下記の通りです。
- 宅地5ヶ所 私道1ヶ所
- 借地権割合 70%の地域(底地は30%となる)
- 当初申告価額 21,900万円(端数削除)
- 請求人主張額 8,797万円(遡及時点修正した価額)
- 業者買取価額 9,800万円(6ヶ所を一括売却)
(審判所認定事実)
- ① 請求人(地主)は各土地の借地権者個別に交渉して売却することの煩わしさから、これを一括して売却するために、買い取り業者に売却することにした。
- ② 更地評価は坪400万円と聞かされていた。
- ③ 請求人は借地権割合が70%と認識していた(底地は30%になることも)
- ④ 不動産業者4社の買い付け証明書(競争入札か?)を取得した。
- ⑤ 尚、当該業者は買い取った底地を1年以内に個別に、買い取り価格の1.5倍~2.6倍で当該借地人に売買している。
【国税不服審判所の判断】
審判所が強調しているのは、
- ①各借地権者と交渉して売却することの煩わしさを回避したいと考え、一括売却を前提に、売却 先を底地の買い取り業者としたものである。
- ②それを1年以内に各借地権者と個別交渉して1.5倍~2.6倍で売却している。
- ③よってこの買取価格は仕入れ価格により決定されたものであり、不特定多数の当事者間での自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を下回ることとなったものと認められる。よってこれは時価ではない。通達で決めたものが時価だと。そう結論付けています。(下線は筆者による)
これに対する私の意見
まずは、①の件、地主個人が借地人に個別交渉して底地を買いませんかと持ち掛けることはほとんど不可能なこと。それも申告期限までの限られた時間内に。大変恐縮ですが、私の知る限りそんな能力のある地主さんはほとんどいません。本件は6ヶ所ですが、これが20ヶ所もあったらどうしますか。細かく言えば、もし5人と個別交渉して売買契約を結ぶと宅建業法違反になります。煩わしさを回避するのが当たり前で、審判所の言い分にはっきり言って笑っちゃいました。
②の件、業者は当然のことながら買取リスクを負います。営業マンを雇い借地人に交渉します。しかし必ず借地人が高値で買ってくれる保証がありません。もし、借地人が地代だけ払っていればいいので買いませんといわれると完全に死に金になります。借地人が買わない場合はこれを第3者に売れるわけもありません。地代利回りなどは1~2%程度なので儲けにはなりません。なので、買った価格に1.5~2倍ぐらいの数字で売ろうとするのが商売です。さらに、業者が借地人に売る価格は限定価格です。特定の当事者間にしか通用しない価格です(先の限定価格参照)。だからこれを標準にしてはいけないのです。これは例外的な価格だと。これは鑑定評価理論のいろはの「い」です。通達の矛盾の最たるものがこの底地と私道です。
③の件、仕入れ価格だから時価ではないと言っています。では道路面からの高低差がある土地や傾斜地を買う建売業者はどのような価格で買うでしょうか。まさに造成費やリスクを考慮して利益を乗せて売ります。これは仕入れ価格といいます。では売れた価格は時価を大幅に下回るから、などという議論はありません。
これをまとめると、鑑定評価基準でいう正常価格は業者買取価格の9,800万円、業者が借地人に個別に売った価格(数字は不明)が限定価格と思料します。
(おまけ)では、仕入れ価格は時価の50%以下だから、買った業者は低廉譲渡で受贈益課税されるでしょうか。
このような批判を受けないようにするには通達改正をして底地の評価は借地権者が買うことを前提とするという文言を入れたらいかがですか。