あえて誤解されることを承知で言います。特に税理士の方には面白くない表現かもしれません。私がこの25年間、相続の現場を横から斜めからそして正面から垣間見てきた結論です。許していただきたい。
相続における2大士業は何かと問われると、弁護士と税理士ですと答えるのが正解です。一面ではその通りですが、それではとてもじゃないが不足しますよと言いたいのです。
何故か、それは相続分野があまりにも多岐に亘っているからです。言わずと知れた相続税法というよりも国税庁が規定する(法律よりも存在感のある)財産評価基本通達による財産評価の矛盾(民法上の財産評価額とのかい離)・複雑(取得者ごと、利用単位など)・煩雑さ(広大地判定)等々枚挙にきりがありません。そして民法(昭和22年に新民法が施行された)が家督相続から均分相続への大転換による日本文化のある意味での崩壊。
これはハート財産パートナーズの林社長の受け売りですが、『進駐軍による日本人民を統治するための陰謀説まであります。つまり、神風特攻隊の飛行兵は何故に敵艦に突っ込んで行けたのか?
これらの人たちは農家の次男以下の子供たちです。「兄貴、おふくろと親父を頼むぞ」と言って、突っ込んだのです。 と、テレビドラマで見た想像でしかないのですが。ともあれ、長男は「家」を守ることが出来ました。それは家督相続だから、守るべき財産のない弟たちは兵役・労役に向けられたのです。
マッカーサーは、アメリカ本国から歴史学者、文化人類学者を引き連れて日本の七不思議を研究させたところ、このことを知ったのです。つまり、神風特攻の裏に家督相続の文化があったのです。であれば、これをなくすためには弟達にも財産を与えれば、それを守ろうとするために特攻隊などに志願することはないと踏んだはずです。よって、均分相続が作られたのです・・・という説です。』
これによって、この70年間、争う続の遠因になったのでしょうか。
しかし、日本人から家督相続というDNAがそう簡単に消せるものではありません。だから今でも都市農家の根本は家督相続です。実際に多くの農家住宅は長男が全財産の70~80%程度の財産を承継しています。そうしないと農家はやって行けなくなります。次男・3男・嫁に行った姉さんに均分で分けてしまうと本家が維持出来なくなるからです。細かく分けてはダメな言葉があります。「田分け者」と言います(これも林社長の受け売りです)。田を分けてはいけないことを昔の人は知っていたのです。
話が、かなり飛んでしまったので戻します。民法の規定する「法定相続分」ですら、このような議論が展開されます。つまり民法を守備範囲とする弁護士がこれらの文化を語ることが出来ません。つまり、日本人の心の中にある相続の本質を知らないと、良い分割方法を提示することが出来ないのです。だから、はっきり言いますが、民法の専門家である弁護士も一分野の専門家に過ぎないのです。
では税理士はどうか。 相続税の申告時は路線価評価でいいのですが、いったん揉めてしまうと「時価」の世界になります。路線価評価 = 時価ではありません。この時ばかりは私のような不動産鑑定士の出番になります(ありがたいことに)。
また、多くの地主さんは土地をたくさん所有しているのですが、意外に現金は持っていません。最近も、相続税を1億円収める必要のある方が、お父さんの残した現金は1,500万円しかないといった事案に出会いました。この場合は土地を10ヶ月以内に売却して現金化しないといけません。この時に分割協議がスムーズにいかないと相続人に相続登記が出来ませんので、売ることが出来なくなります。
この場合の登場人物は、税金を確定できる税理士(広大地判定と小規模宅地の選択も重要)、分割協議をまとめられるコンサルタント、相続登記や相続人の確定で司法書士、売る土地の査定価格を出す不動産鑑定士、売る土地の確定測量で土地家屋調査士、売る土地の仲介業務で宅地建物取引士が必要になります。
これにローンがあれば銀行交渉、アパート等があれば入居者対策、今後の建築の修繕や管理業務等、様々な業務の専門家が関与することになります。このように分割が円満にいけば問題がないのですが、兄弟間で調整がつかないことがままあります。お兄ちゃんだけが多すぎるなどの意見が出れば争続に発展します。こうなったら、弁護士の出番です。調停から審判になるケースが続出しています。
これらの、膨大な業務を一人の人間がやれるはずがありません。だから相続は本当の意味での総合的プロはいないのです。もちろん、これらの専門家を差配する、相続を薄く広く知っているプロデューサー的役割の人が存在するのは確かです。