司会: 本日は株式会社東京アプレイザルの代表取締役である不動産鑑定士の芳賀則人先生にお越しいただきました。よろしくお願いいたします。

芳賀: よろしくお願いします。

司会: 芳賀先生は鑑定評価の書籍を執筆されるなど、業界では知らない方がいないほどの有名な不動産鑑定士(注1)の先生です。私は前職が出版社勤務なのですが、当然存じ上げていました。芳賀先生には、東京アプレイザルの足跡はもちろん、不動産鑑定士という資格自体にも強い想いをお持ちでらっしゃるとのことですので、その点についても、お話を伺えればと思います。

芳賀: そうですね・・・はぁ(ため息)

司会: どうされたのですか?ため息をつかれて、少しお元気が無いようですね。

芳賀: 実は、ついこの前、不動産鑑定士の試験結果が出たのですが、どれ位の受験者数・合格者数がいると思いますか?

司会: 私の大学時代(2000年前後)には、それこそ、司法試験・公認会計士試験と並んで難関3大国家試験として有名でしたし、受験者数は4,000人位いたイメージがあります。そのご様子ですと、だいぶ減ったのですかね。

芳賀: この資料を見てください。

司会: えーと、申込者数1,078人・受験者数706人・合格者数100人・・・ですか。

芳賀: そうなんです。年々減っていて、現状ここまでの数字となってしまいました。

司会: これは想像できなかったですね。不動産鑑定士業界に身を置く先生にしてみれば、由々しき事態ですね。

芳賀: 本当に悲しいですね。それだけ人気がないということですからね。

司会: 他の士業の試験と比べると、減少のスピードが尋常じゃないですね。

芳賀: 若い方は、不動産鑑定士試験に合格しても、将来性が無いだろうと思っているんですね。このままでは、絶滅してしまいますよ。私はよく「不動産鑑定士は絶滅危惧士業」であると言っているんです。

司会: 確かに、これからの時代、上の世代の方は辞めていく一方であることを考えると、100人では本当にその危機を感じますね。これほどまでに将来性が無いと思われているのは、なぜなのでしょうか?

芳賀: 私は常々言っているんですが、不動産鑑定士の仕事に対する「待ち」の姿勢が原因だと思います。現在でもそうですが、不動産鑑定制度は、公共事業と共に発展してきたのです。昔で言えば、各役所が行う公共用地等の買収の際に必須でしたし、近年では、競売・公売・固定資産税評価等々の際に依頼がありますね。これらは、もちろん非常に重要な仕事ですので、否定はしません。しかし、あえて言わせてもらうならば、これらは天から降ってきた仕事であり、自分たちでマーケットを創造するというものではありません。

司会: つまり、公共事業依存であり、しかも仕事に対して「待ち」の姿勢であることが、不動産鑑定士の将来を暗くしているということですかね。

芳賀: 間違いなくそうだと思っています。誰にでも分かることですが、公共事業は、いつまでも無限にあるわけではありません。これらの既得権といってもいいような業務のみで、業界としてずっとやっていけるかということですね。事実、売上げを見てもはっきりと分かりますよ。業界全体の売上は右肩下がりもいいところですからね。固定資産税の評価案件を除くと、平成18年に450億ほどあった売上げが、平成26年には350億強の売上となっています。じり貧ですね。やはり、創造性の無い職業には未来を見るのは難しいですよね。

司会: 後ほど、芳賀先生には、その独自のビジネス展開のお話をお聞きしますが、芳賀先生は常にその点を危惧していたからこそ、新しい市場へ打って出られたわけですよね。

芳賀: そうですね。そこは、常に考えてやってきました。公共事業への依存だけでは危ないと思えば、個人所有や会社所有の土地に目を向けるべきではないかという発想にいきつきますね。

 


(注1)不動産鑑定士とは(日本不動産鑑定士協会連合会HPより)

不動産鑑定士は、地域の環境や社会情勢など諸条件を考慮して適正な地価等を判断する唯一の資格者です。また、豊富な実務経験と知識を活かして、取引事例の調査・分析及び物件調査・市場価格などの隣接業務のほか、団体や個人を対象に不動産の利用に関するコンサルティングなどの周辺業務も行っています。