人は会社経営による事業に大成功するとか株式投資で一時的に大儲けすると、その後の行動様式(というのかどうか)はほぼ決まっているような気がします。ほぼというのは人によって多少の違いがあるからです。ある人は高級時計、超高級車、高額クルーズ船、有名別荘等々です。そして極め付けは高級邸宅(自宅)です。私は不動産業界(正しくは不動産鑑定業界)に身を置いていることもあり、あの昭和バブルから始まってリーマンバブル、平成・令和バブル(コロナで終息)金融機関との付き合いもありバブルを横目に見ることが出来ました。残念ながらその恩恵は不動産鑑定士の法を大きく超えることは出来ませんでした。まぁ傍目八目的に見たということです。ここで経験したことを披露して今後、事業や株等で大儲けする人に多少の警告になればという思いです。つまり、多額なお金を持った後の使い方です。それは、ずばり自宅用建物へのお金の使い方です(人様のお金をどうこう言っても仕方のないことですが、聞いて下さい)。実際の鑑定実例を交えて話を進めます。

 

◆ある経営者の例

平成初めに(バブル後半です)土地を8億円で購入、その上に5億円の鉄筋コンクリート造の自宅建物を建築しました。合計13億円です。個人所得は6億円を超えています。当然所得税は3億円近くになります。5年後にはバブル崩壊が起こります。土地は半値程度になりました。公示価格が半値ですのでほとんど議論の余地はありません。この物件を同族法人に売ることになりました。当時の税制では個人所得と不動産譲渡損の損益通算が認められていたからです。

売買価格が問題です。土地は半値で4億円ですが、建物時価はいくらでしょうか?単純に減価償却費を控除した価格でしょうか。ざっくり計算すると簿価は4億5千万円程度の評価額になります。であれば、税務署は何の問題はないでしょう。そこにその社長の顧問税理士さんから、芳賀さんこの建物の評価はいくらが適正ですか?ついては鑑定評価をお願いしたいと。時価は4億5千万円はしないですよね、ということです。それは有難い話ですが、不動産鑑定士の悩み所・腕の見せ所です。

鑑定理論には積算価格(コストプライス)比準価格(マーケットプライス)収益価格(インカムプライス)から価格を導くという大原則があります。本件は自宅用建物なので収益価格は置いておきます。

売買価格はあくまでも取引相手があってその交渉過程で価格が収れんしていくものです。今回は同族法人という訳ありの相手なので微妙ではあります。とはいえ価格は第三者間取引をイメージしたものになります。ここで当該建物の価値はいくらかということです。仮に建てた瞬間に亡くなってもう住まないとなったとします。自分で建てた金額は5億円ですが、果たして他人はこの建物にいくらの価値をつけるかということです。建物価格というのは、5千万円の建売住宅であれば、一般的にはせいぜい2千万円程度です。これであれば、誰が買おうが2千万円の評価になります。しかし、5億円の建物は個人的な趣味や趣向があり、また、必要以上に大きく(例えばプール、地下スタジオ付きなど)余計なものがいっぱい付いています。他人が買うにあたって、かかった建築費を素直に受け入れる可能性はほぼゼロと思います。ましてや築5年を経過しています。たまたま、比較的近い場所にやはりバブル崩壊のあおりで結構な邸宅の取引事例が見つかり、その建物価格が恐ろしく低い価格で取引されていたことを根拠にして、結果は建物価格を約2億5千万円と決定しました。簿価から比べると2億円程度の評価減です。思い切った評価額です。もっと言えば、もし自分がお金持ちでこの物件を買おうとしたときにいくらなら納得するかということでもあります(私が、もし買うとしたら1億円の価値もつけないのが本音です)。その後、この価格に疑問があるということで税務調査が行われましたが無事に認められました。

建物はいくら豪勢に作っても自分の価値観だけの世界です。他人には通用しません。これは個人的な見解ですが、自宅建物の上限は1億円程度かなと思っています。築40年もすると解体する必要があったり、相続で揉める場合など負の財産になることもあり得ます。

 

【前回Q4の答え】 誤り

東京都建築安全条例によると路地の長さが20mを超える場合は、間口が3m必要との規定がある。よって、当該地は建築確認が下りない土地になる。

 

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