民法改正により配偶者居住権という訳の分からない権利が創設されます。これは奥様の終身借家権というイメージでしょうか。死ぬまで夫名義(だった場合)の自宅に住み続けることができる権利です。もし老人ホームに入っていたとしても他人に貸すことができる(つまり家賃収入が得られる権利)もあります。他人に貸しても居住権といえるのでしょうか。いつか、老人ホームから戻って自宅に住むことを確保できる。そんなことをする老人がこの世に何人いるというのでしょうか。

 

配偶者といいながらもこれの主旨、イメージは奥様の老後の生活を保障するための制度だと思えばいいのでしょう。世の殿方は、自宅所有権者は自分だから奥様が死亡しても配偶者居住権は関係ないと思っています。元々俺の家だから。

 

これを主張する奥様はどんな方でしょうか。A家の家族構成と相続財産の内訳をイメージします。

遺言書はありませんでした。

相続人は妻(70歳)・長男・次男の3人 但し、妻は後妻で5年間夫の世話をしてきました。

 

遺産総額  自宅の土地・建物 時価評価  8,000万円

      固定資産税評価額 土地    5,000万円

               建物      500万円

      現預金            2,000万円

      合計       時価          1億円

 

妻の法定相続分2分の1は5,000万円なので、自宅を取得すると代償金3,000万円を払うことになります。そんなお金はないのが通常。であれば、配偶者居住権を相続すれば代償金は払わなくて済みことになります。超暴論ですが、不動産鑑定士的な配偶者居住権の評価をご覧あれ。

 

① 借家権的な評価方法より

8,000万円 × 0.35 = 2,800万円

(平均余命20年として、20年間の居住権割合)

 

② 終身に亘り家賃を払わなくていい逆収益価格

前提条件:仮に家賃収入を月額20万円、20年間取れるとする(本来はこれの査定が必要)

複利現価率 5%として 20年後の現在価値

20万円×12か月×12,462=2,990万円

(但し、これより固定資産税相当分を控除する)

2,990万円 - 150万円 = 2,840万円

 

1及び2よりほぼ近似値となったので2,800万円と査定した。

(注:これはあくまでも芳賀の個人的見解です)

 

仮にこれが妥当だとすれば、妻の取り分は5,000万円なのでまだ余裕があります。妻はこれでは足りない、現金も少しは下さいと言うのでしょうか。

配偶者居住権などという、ややこしい権利を認めたおかげで相続争いが増える恐れさえあります。

 

次にこの居住権負担付き土地建物の所有権価格はどうなるかです。

20年間も使用・収益出来ない物件をどのように評価するかは鑑定業界としても喫緊の課題です。

単に、完全所有権価格-配偶者居住権価格=居住権負担付所有権にはなりません。

まさか、借地権60なので底地は1-60=40などとバカな評価方法はしないでしょうね。

 

では、これも超試算ですが、配偶者居住権の負担付き所有権価格はどうするのでしょうか。仮に長男がもらったとします。もらった人は賭けみたいなものです。20年間は使えないし売れないし、担保にも使えない、どうにも役立たずの不動産です。

しかーし、配偶者が早く死んでくれればあっという間に数千万円の財産に化けてしまうかもしれないのです。半値8掛け2割引きであれば、約2,600万円になります。完全所有権の32%です。ほとんど建築確認不可物件の世界です。

これ位になれば、買う業者もいるでしょう。妻が死ぬのをじっと待つ。何ともいやな商売ですが。

 

となりますが、奥さんが85歳だったらどうなるか、あるいは70歳でも余命1年という診断であればどうなるかなど、年齢によって差をつけるのでしょうか?

実は「不動産鑑定」11月号(住宅新報社刊)でこれらのことが取り上げられています。この中に法制審議会民法部会資料が掲載されています。建物の算定方法と敷地利用権の算定方法が載っています。

※詳しくはインターネットで、「長期居住権の簡易な評価方法について」で検索すると、ご覧になれます。

とはいえ、これは固定資産税評価を時価と置き換えての算定方法です。これが現実に使えるかどうか、分割協議時や遺留分の侵害請求時にこれが機能するかどうかは疑問です。