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[スタッフブログ]斎藤紀明が斬る!

『このままでいいのか?行き止まり私道の3割評価』シンポジウムを通じて、あらためて土地評価を考える2015.11.25

11月16日(月)、弊社セミナールームにて『このままでいいのか?行き止まり私道の3割評価』と題したシンポジウムが開催されました。このシンポジウムの中でパネルディスカッションが行われ、そこで私が司会(コーディネーター)を務めさせていただいたため、パネラーの皆さまとの事前の打合せにおいて、あらためて相続における土地の税務評価について考える機会がありましたので、そこで気づいたことをまとめてこちらに掲載させていただきます。

なお、今回の考察は、上記のシンポジウムのテーマとなりました「行き止まり私道」の3割評価という、財産評価基本通達に関する論点がベースとなっていることを申し添えます。そして、シンポジウムの参加者の方から、「行き止まり私道の3割評価」は不動産の時価の観点からみればおかしな評価である。にもかかわらず、税の専門家である税理士の先生方はそれを問題視しないのだろうか?という疑問を呈されたことから、下記の文章になりました。

 

まず、相続税法22条の「時価」について、それが財産評価基本通達による評価であるとする税務当局の姿勢についてですが、ここには「時価」の前に「不動産の価額とはなにか」の考察が必要かと思われます。すなわち、

(1)まったくの第三者間での売買価額
(2)同族間など、利害関係者間の売買価額
(3)相続・贈与など、親族関係における移転価額

当然ながら、「時価」とは本来(1)の「第三者間の売買価額」になります。(2)、(3)はいずれも不動産の所有権移転の相手が親族等の利害関係人であり、価額の正当性を検証する必要があります。なおかつ、同族間売買などの場合は「取引行為」ですので実際に売買契約等の契約が発生しており、所有権移転の手続きがあります。

しかし、相続は「人の死亡」といういわば自然発生的な原因によって親から子に否応無く権利が移転するものなので、所有権移転の性質が(1)、(2)とは違います(贈与は契約行為ですが、贈与税は相続税の補完税なのでここでは論点から外します)。つまり、売買などの所有権移転と違い、相続の場合には買主からの「対価の支払い」がありません。そうなりますと、「そもそも対価の支払いがない相続の所有権移転に課税するのがおかしいのでは?」という話になりますが、それでは「相続に税金を課税するのが是か非か」という壮大なテーマになってしまいますので、今回はここではその論点は取り上げません。あくまで、相続税は対価の支払いがない「人の死亡」による権利の移転への課税という点で、売買等とは違うという論点に絞らせていただきます。

そうなりますと、売買等の場合には、売主の「売りたい」という意思と、買主の「買いたい」という意思の合致があり、そこに「いくらなら売ってもよい」、「いくらなら買ってもよい」という価額の決定のプロセスがあります。同族間の場合には価額の決定に恣意的な要素が含まれますが、それでも意思の合致という点では同様です。一方の相続においては、相続人はそもそも「その土地をいくらで買いたい」という意思を持っているわけではありません。

したがって、(1)・(2)の売買等と、(3)の相続では価額の決定プロセスがまったく違います。というより、相続にはそもそも上記のような意味での「価額決定のプロセス」がありません。相続の場合には、あくまで「相続税を課税するためにはその土地の評価額を決めなければならない」という課税側の都合で価額(相続税評価額)が決まるわけです。

さて、そこで論点は「相続税法22条で時価と定めているのだから、それを財産評価通達で縛るのはおかしい」ということになります。その点については、税理士の先生など専門家の方々は意見が分かれます。主なものとしては、

(1)すべての土地を不動産鑑定評価するべき
(2)わざわざ相続税評価などせずに、固定資産税評価額で課税すればよい(ドイツなどはこの方式です)
(3)現行の制度でよい
(1)のとおりすべての土地を不動産鑑定評価するのが理想的ですが、その場合には納税者の費用負担が大きいことや手続きが大変であり、あまりにも大変なので現実には難しいという意見があります。しかし、これについてはもう一つの視点として、「すべての土地を鑑定評価で申告されると、税務署がその評価の妥当性をチェックするのが大変だ」ということもあろうかと思われます。

(2)のように、「わが国にはもともと固定資産税評価額という制度があり、登録免許税等はそれで課税されているのだから、相続税もそれで課税すればよい」という意見もあるわけですが、その場合には「固定資産税は地方税であり国税である相続税にそれを準用するのは難しい」という役所の縦割り行政の弊害があります。さらに重要なことは、「固定資産税評価には誤りが多い」という問題があります。その理由としては、固定資産税評価は地方自治体の職員が職務として行うわけですが、公務員であるために人事ローテーションがあり、必ずしも自治体には土地の評価に精通した職員がいないため、専門的な評価の知識が不足していることに起因することが多いといえましょう。したがいまして、そのような固定資産税を基にして相続税を課税するのは問題ということがあります。

(3)現行制度でよいという考え方は、そのベースとなる考え方は必ずしも「今の財産評価基本通達には問題がないのでこのままでよい」という積極的な支持ということではなく、あくまで課税上の三大原則である、

1)評価の安全性の原則
2)評価の統一性の原則
3)評価の簡便性の原則

の3つから考えて、現行制度でやむを得ないという、消極的な支持も含まれると解されます。このように消極的な支持をしている税理士の方々は、財産評価基本通達の内容に精通している方は多くないのでは、と推測されます。実務では、相続税・贈与税申告の相談や依頼がきたときに、該当する通達の内容を調べる程度のことが多いと思われます。そのため、通達の内容一つ一つの意味だとかその正当性を考えるような機会は少なく、あくまで通達を適切にあてはめてというスタンスで土地評価をしている方が多いのでは、と推察します。

納税者の方のなかには、「税理士は税の専門家なんだから、財産評価基本通達の内容はすべて分かっているはずだ」と考えて、「それなのに、実際の土地の状況にまったく合わない通達(行き止まり私道の3割評価など)を放置しているのはけしからん」というご意見をお持ちの方もいらっしゃいます。しかし、実際にはそこまで通達の内容を熟知している税理士は少ないと思います。なぜならば、税理士の先生方は中小企業の会計・決算・申告が中心業務であり、相続税の申告はいわば「スポット」の仕事なので、仕事のための勉強は法人税および所得税が中心になります。法人税・所得税はいずれも膨大なボリュームの税法であり、さらに毎年のように改正があります。その上、実務では「租税特別措置法」が重要で、むしろ措置法の適用を間違えると重大な税務ミスになりかねないのでその勉強も大変なエネルギーが必要です。

そのため、そもそも相続税に詳しくない税理士も多く、ましてや財産評価基本通達の中身まで熟知した税理士となりますと非常に限られたごく一部の専門性の高い方々ということになろうかと思います。そのような状況のなかで、適正な土地評価を追及していくためにはどうすればいいのか。それを相続や事業承継に関する専門家ネットワークを通じて研究していきたいと思います。

東京アプレイザル物語

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